無人の兵団 ポール・シャーレ著 早川書房

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無人の兵団

『無人の兵団』

著者
ポール・シャーレ [著]/伏見 威蕃 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784152098757
発売日
2019/07/18
価格
4,070円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

無人の兵団 ポール・シャーレ著 早川書房

[レビュアー] 篠田英朗(国際政治学者・東京外国語大教授)

 AI(人工知能)技術の発達が、軍事分野にもたらす諸問題を詳細に論じた。ただし最新の兵器事情を紹介することを目的にした本ではない。むしろ無人兵器の発達が、どのような倫理的問題を生み出すのかを、論じる大著だ。

 著者は元米軍兵でイラクやアフガニスタンで実戦経験を持つ。タリバンの偵察要員と思われる村の少女や、怪しい谷間のヤギ飼いに遭遇したときの経験は、生々しい。国際人道法は、敵軍に従事している者への攻撃を禁じていない。民間人を使った敵を攻撃することを迷えば、自分の仲間を危機にさらす結末をもたらしかねない。だが結局は、著者は、少女もヤギ飼いも撃たなかった。無人兵器だったらどうしたか、と著者は自問する。人間の判断はどこまで関わるべきか。法的責任は誰がどこまで負うのか。

 現代世界の戦場では、軍服を持たない政府系軍事勢力や反政府勢力やテロリストが入り乱れて交戦している。その中で、アメリカは世界最先端の無人兵器の技術を発達させてきた。中国は、アメリカにも匹敵すると言われる技術を、世界各国に輸出している。すでに17カ国政府が武装ドローンを保有している。ゲリラ勢力やテロリスト集団も保有している。戦場が「無人の兵団」で覆われる日も、空想ではない。

 自律型兵器の危険を先取りしているのが株式市場だという指摘も、興味深い。アメリカの株式市場では取引の4分の3がオートマ化されている。ところがアルゴリズムに基づいた自動発注システムは、機械の暴走で、わずか数分で巨額の損失を作り、巨大企業を破綻させる。

 本書は、本文だけで400頁(ページ)以上あるが、興味深い実例、広範な取材、真摯(しんし)な問いかけで溢(あふ)れているため、読み飽きることはない。日本はAI技術で立ち遅れていると言われる。そのためAIが人類にもたらすインパクトに関する議論への参加にも立ち遅れていることを痛感する。伏見威蕃訳。

読売新聞
2019年9月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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