ガラン版 千一夜物語 西尾哲夫訳 岩波書店

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ガラン版 千一夜物語(1)

『ガラン版 千一夜物語(1)』

著者
西尾哲夫 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784000287739
発売日
2019/07/19
価格
3,850円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ガラン版 千一夜物語 西尾哲夫訳 岩波書店

[レビュアー] 宮下志朗(仏文学者・放送大特任教授)

 「開け、ゴマ」のアリババや、アラジンと魔法のランプでおなじみの『アラビアンナイト』。青春時代、古沢岩美のエロチックな挿絵が添えられたバートン版を読みふけったものだ。シャガールの叙情豊かなリトグラフもあるし、ディズニーのアニメや実写版も大人気。『アラビアンナイト』は万人が楽しめる世界のファンタジーだ。

 世界文学としての原点は、今回全訳されたガラン版にある。アントワーヌ・ガラン(1646~1715年)は中東に長く滞在したフランスの東洋学者。『シンドバード航海記』をアラビア語写本から翻訳した頃、これが「千一夜」と題する長大な物語集の一部だと聞き、シリアの15世紀頃の写本を入手する。その仏訳第1巻はヨーロッパで評判となり、英訳『アラビアンナイト・エンターテインメント』も登場して人気となる。中東世界にも逆輸入され、この作品の価値が見直される。ガランこそは、この世界文学の「産みの親」なのだ。

 将軍の娘も民の娘も一夜かぎりの妻にし、翌朝には殺してしまう王。宰相の長女で「胆力と洞察力」に富む美女シェヘラザードが「わたしを王さまの寝室に」と志願する。父は「ロバと牡牛(おうし)と農夫の寓話(ぐうわ)」の話をして止める――と、物語はのっけから、劇中劇ならぬ話中話の世界に突入する。だが腹案がある娘の決意は変わらない。床入りした翌朝未明、シェヘラザードの妹が打ち合わせ通りに「夜が明ける前のひととき、そらんじておられる楽しいお話をお聞かせください」と姉に頼む。王の許しを得て話を始めると、その途中で夜が明けてしまう。話に引き込まれた王は処刑を1日遅らせることを認める。翌日も、その翌日も。

 おなじみの始まりだけれど、何度読んでも魅せられる。かくして話の中に話が、またその中に話がと、眩暈(めまい)を覚えるほどの物語の迷宮が。これぞ『千一夜物語』ワールド。訳文も大変読みやすく、全6巻の完読をめざしたい。

読売新聞
2019年9月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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