孤絶―家族内事件 読売新聞社会部著 中央公論新社

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孤絶

『孤絶』

著者
読売新聞社会部 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784120052231
発売日
2019/08/08
価格
1,760円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

孤絶―家族内事件 読売新聞社会部著 中央公論新社

[レビュアー] 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

 読みながら何度も涙と震えを堪(こら)えきれない。他人事ではない。重い。

 本紙に40回にわたって掲載され、読者からの反響の大きかった連載に再取材を加えてまとめた。

 介護殺人、病気の子を殺した親、虐待、孤立死といった事件について丹念に現場に足を運び、真摯(しんし)に関係者の声を聞き取っている。警察発表をそのまま記事にするのではない。事件発生当初は大きく取り上げず、「ベタ記事」と呼ばれたニュースをあらためて丁寧にすくいとる。

 義母と夫の長年の「ダブル介護」の末に「何もかも壊してしまおう」と、自宅に火をつけた女性は、放火と殺人未遂の罪に問われる。判決を3日後に控えた拘置所での面会で、事件への後悔とともに夫への恨み言を女性は記者に打ち明ける。普段の取材なら判決を報じて終わる。

 しかし、記者は執行猶予判決後に女性から「追い詰められている人を一人にしたくない」と、その後の希望を聞きとり、手紙でのやりとりを続ける。そして、女性が事件からの反省をきっかけにして、介護施設で働いたり、新たな住まいで自治会長に選ばれたりする姿を確かめる。

 そこから記者は「介護する人の孤立感を和らげるのは、自分が役に立てているのだという実感と周囲のねぎらい」だと記す。

 あるいは、精神障害の長男を殺した男性から、別の事件を機に涙声で電話をもらう記者もいる。おそらく記者とのやりとりが、男性にとって自殺を思いとどまらせるブレーキになっている様子がうかがえる。

 いずれも、記者魂が探りあてた、孤絶からの希望の道筋だ。

 家庭内で子どもや老親が犠牲になる事件は後を絶たず、その度に怒りや悲しみが湧きあがる。ただし、本書は、そうした一時の沸騰した感情に流されない。海外の事例も含め、多くのデータと識者の知見を踏まえ、こうした「古くて新しい」テーマを自分ごととして冷静に考えるチャンスと、孤絶への光を与えてくれる。

読売新聞
2019年9月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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