日本語「標準形」の歴史 野村剛史著

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日本語の焦点 日本語「標準形」の歴史 話し言葉・書き言葉・表記

『日本語の焦点 日本語「標準形」の歴史 話し言葉・書き言葉・表記』

著者
野村 剛史 [著]
出版社
講談社
ジャンル
語学/日本語
ISBN
9784065163856
発売日
2019/06/12
価格
2,035円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

日本語「標準形」の歴史 野村剛史著

[レビュアー] 加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

 標準語はいつ、どのようにできたのか。「明治以降に東京語が標準語になった」という見方は間違いだ。江戸時代には、上方・江戸という二つの楕円(だえん)の中心として話し言葉のスタンダード(標準形)ができあがっていた。それが東京語を作ったのだ。

 本書は日本語の標準形の形成史を、話し言葉・書き言葉・表記の面から再考する。

 平安時代の『源氏物語』の文体は当時の話し言葉だった。言語上の時代区分でいう「院政・鎌倉期」から、標準形は複雑な様相を呈し、紆余(うよ)曲折を経て近代に至った。

 明治時代は、言文一致運動や仮名遣いの正書法の模索で揺れた。尾崎紅葉の小説『金色夜叉』は一見すると文語文だが、実は、話し言葉の影響を受け「けり」「たり」など文語の助動詞の用法はデタラメである。森鴎外は、文部省の臨時仮名遣調査委員会に軍服姿で出席したが「正しいから正しい」式の循環論法的意見しか述べられなかった。

 標準語確立の意外な立役者は活字印刷であり、匿名の校正者たちだった。単線的な発展史観や、東京中心史観をくつがえす本だ。(講談社選書メチエ、1850円)

読売新聞
2019年9月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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