初夜・姦通・戦争未亡人が三大テーマ「カストリ雑誌」貴重なコレクション

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戦後のあだ花 カストリ雑誌

『戦後のあだ花 カストリ雑誌』

著者
渡辺豪 [著]
出版社
三才ブックス
ISBN
9784866731469
発売日
2019/09/05
価格
3,300円(税込)

大衆の裸の欲望の蠕動であり戦後日本の焦土に咲いた毒花の花園

[レビュアー] 都築響一(編集者)

「カストリ雑誌」という言葉だけは聞いたことがあるひとも多いだろう。「だいたい3号で廃刊になるので、闇市で流通していた3合飲むと泥酔するカストリ酒にちなんで名づけられ」なんて豆知識をお持ちの方もいらっしゃるはず。しかし終戦直後、出版規制の廃止とともに生まれ、昭和24~25年ごろまでに数千種という規模で濫造されたカストリ雑誌は、国会図書館にコレクションが揃っているわけでもなく、関連資料も乏しくいまだに全貌をつかむことが難しい。戦後初の一大出版ブームだったというのに。本書はそんなカストリ雑誌の歴史と、とりわけ資材も機材も欠乏する中で育まれたグラフィック・デザインの素晴らしさに注目して編まれた貴重なコレクションだ。

 著者の渡辺豪は自身が約千冊のカストリ雑誌を収集しつつ、日本最大のソープ街である東京吉原のど真ん中に遊郭や風俗関係の書籍に特化した「カストリ書房」を構える、ソノ道の専門家。まだ40代初めという若さなのに、自分が生まれてすらいなかった戦前戦後の遊郭や闇市といった風俗文化研究に没頭してきた。

 以前、新潟のコレクターから、カストリ雑誌とは「戦争に負け占領下にあった大衆の、裸の欲望の蠕動だった」と教わった。その三大テーマが「初夜・姦通・戦争未亡人」だったと聞いて、欲望を赤裸々にできないまま長い戦争のトンネルを抜けた先の、焦土に咲いた毒花の花園が目に浮かんだ。

 そしてカストリ雑誌が花開いた時代から半世紀以上の時を経て、あいもかわらず、「カストリ精神」を単にちょこっと見栄え良くしたにすぎない、下品な実話雑誌やテレビのワイドショーやSNSの時代に、我らはいま生きている。

 ちなみに最後のカストリ雑誌『夫婦生活』が廃刊になったのが昭和30年。その翌年に出版社系初の週刊誌として誕生したのが『週刊新潮』なのだった。

新潮社 週刊新潮
2019年10月24日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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