6年かけて10刷達成! 翻訳YA『さよならを待つふたりのために』〈ベストセラー街道をゆく!〉

レビュー

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多様性を描き出す翻訳YA 統一デザインで棚を確保

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

 児童書? それとも海外文学? ――書店員が陳列場所に悩みやすいのが翻訳YA作品だろう。ヤングアダルト、すなわちティーンエイジャーの読者を想定して書かれてはいるものの、本国でも購買者のボリュームゾーンは20~30代。かといって日本のライトノベルとも趣が大きく異なる。ゆえに棚に定着する前に消えていくこともしばしば。

 そうした困難な状況のなかでコツコツと刷数を積み上げ、6年かけて10刷を達成したのがジョン・グリーン『さよならを待つふたりのために』。初刷の3000~4000部を売り切れば上々といわれるYA分野で2万部という数字は輝かしい。

 本書は、甲状腺がんを患う少女と骨肉腫で片足を失った少年の恋愛を、あくまで彼女たちの日常生活の中から繊細に描き出したことで注目を浴びた青春小説。2013年に創刊された岩波書店〈STAMP BOOKS〉シリーズから登場した一冊で、他のラインナップには、自意識や対人関係といったこれまでの日本の児童文学でも中核を担ってきた主題に加え、強迫性障害やセクシャルマイノリティなどのテーマに堂々と踏み込んだものも目立つ。

「たとえば移民や同性愛をとりまく状況への理解なら、日本よりアメリカのほうがずっと進んでいます。そうしたテーマを自然な手つきでフラットに描いている海外の文章に触れることは、若い世代にとって財産になるのではないかと思って」。シリーズを立ち上げた担当編集者は語る。

 装丁も特徴的だ。“海外からあなたに届く物語”をコンセプトに、切手(=スタンプ)のマークや縞模様をあしらい、エアメールを想起させるデザインにした。書店や図書館にずらりと並んでいるさまは実に絵になる。「見た目の統一感を出すことで棚を確保する意図もありました。まずは見つけてもらえないと読者のもとに届きませんから」(同)。

 読者からの感想で胸を打ったのは「彼/彼女らに会えて良かった」というコメント。「(自分と)同じところは共感を、違うところは関心を持ってもらえたら本望です」(同)。

新潮社 週刊新潮
2019年10月24日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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