教師人生…フランク・マコート著 国書刊行会

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教師人生

『教師人生』

著者
フランク・マコート [著]/豊田淳 [訳]
出版社
国書刊行会
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784336063076
発売日
2019/07/10
価格
2,640円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

教師人生…フランク・マコート著 国書刊行会

[レビュアー] 本郷恵子(中世史学者・東京大教授)

 著者フランク・マコートは、アイルランド移民の息子として、1930年にニューヨークで生まれた。4歳の頃に一家はアイルランドに帰還するが、そこでは極貧の生活が待っていた。彼が少年時代を回想した『アンジェラの灰』は、私の心に「泥の中で暮らすような貧困」という印象を残している。そして19歳で再びニューヨークに渡る。今度はひとりきりで。アメリカ陸軍に招集されて、ドイツで兵役に就き、復員兵援護法のおかげで大学へ行った。27歳で英語教師になり、ニューヨークのティーンエイジャーたちと向き合って30年間を過ごした。

 最初に赴任したのは職業高校だ。アイルランド訛(なま)りが抜けないマコート先生は、クラスの雰囲気を和らげるために、惨めな子供時代の話をする。旅する吟遊詩人のように話すのだけれど、それが教育になっているのかどうかわからない。「ジョンは店に行った」という例文の文法を教える授業で、「なぜジョンは店に行ったのだろう?」と質問する。生徒は当惑するが、いつのまにかジョンが店で文法書を盗み、刑務所に入れられたという物語ができあがる。教室は大爆笑・大拍手で、みんなが文法に夢中になる。

 マコート先生の授業はユニークだ。ニューヨーク市のトップ校では「創作」を教えた。生徒に料理本のなかのレシピを朗読させた。朗読はいつのまにか歌になり、生徒は楽器を持ち出して伴奏をつける。広東語で歌われる北京ダックのレシピに、はじめて見る中国の楽器、エッグベネディクトとヴァイオリン。

 マコート先生はトラウマのようにアイルランドの記憶を引きずっているが、生徒たちもまたいろいろな事情を抱えている。教師とは、とびぬけて多くの人生と関わる職業だ。

 教師生活を終えた人生の第2幕で、マコート先生は自ら本を書くことに挑戦する。第3作となる本書は、愛と熱意、ユーモアと赦(ゆる)しに満ちた交錯を語るものとなった。豊田淳訳。

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 <原題>Teacher Man

読売新聞
2019年10月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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