札幌を舞台に勃発する超能力者同士の戦い! 第11回角川春樹小説賞受賞作にSFがやってきた!

インタビュー

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ブラックシープ・キーパー

『ブラックシープ・キーパー』

著者
柿本みづほ [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758413435
発売日
2019/09/30
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

特集 第十一回角川春樹小説賞受賞作刊行記念 かきもとみづほの世界

[文] 角川春樹事務所

今年の受賞作品は、近未来の札幌を舞台に特殊な能力を持つ人々の希望と再生を描いた物語。選考委員で北海道出身の今野敏氏も絶賛の本作。タイトルにも入っている「羊(シープ)」が身近な札幌で生まれ過ごしてきた柿本さんへのインタビュー

聞き手=青木千恵(書評家) イラスト=みっちぇ(亡霊工房)

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普段住んでいる札幌に若干の歪みを持たせ、人を書きたいと思っていました。

──受賞作を書かれた経緯をまず教えてください。

柿本みづほ(以下、柿本) 札幌を舞台にしようと思ったのが最初でした。東京を舞台にしても土地勘がなくてうまく書けなかったので、土俵をこちら側に寄せてみようと。札幌が舞台の近未来小説で、特殊な力を持ち、生きづらさを抱えている人を題材にしようと考えました。生きづらさは私も感じていて、同じように抱えている人を書いてみたかったですし、ハリウッド映画の脚本の書き方の本を読み、キャラクターに葛藤や絶望を与えると物語がドラマティックになるとあったのでそれも参考にしました。小説のメインを人間ドラマにし、能力のバリエーションをいろいろつけて面白くしようと考えました。

──主人公の斗一桐也は「羊飼い」と呼ばれる異能力者です。彼のところに少女(ヨウ)が現われて物語が動き出しますが、プロットや人物をどう造形されましたか。

柿本 好きな映画の『レオン』のイメージで、無力な少女と裏社会にいる人のバディものにしようと膨らませていきました。主人公を中年男性にしたら『レオン』に寄りすぎてしまったので、若いお兄さんでライトめの賞金稼ぎにしました。ストーリーを決めた時に桐也とヨウ、それに味方側の人物を考え、敵側は書きながら考えていきました。桐也とヨウは、感情的に理解できる、好きな人物ですね。纏は母親的な造形で主人公のそばに置きましたが、実際にいたらおせっかいで距離を置きたいタイプかも(笑)。一番気に入って書いたのが伊織で気持ちが入りすぎたのか、書きすぎを指摘されて単行本にする段階で削りました。プロットは一日くらいで立て、キャラクター作りの方に時間がかかりました。

──敵も味方も、異能力者が続々出てきます。いろんな能力や技の名前を考えるのは大変でしたか。

柿本 とても楽しかったです(笑)。能力名にはそれぞれ元ネタがあって、乗って造形したので、悪乗りしたところまで楽しんでいただけたらいいですね。能力を使うのに面倒な条件があるものにしたいと、羊飼いと羊の関係がカギになる設定にしました。ゲームでHPやMPが消耗されるように、特殊な能力を使う際にリスクを負ったり消耗するのは大抵は使う側ですが、何かの映画でリスクを肩代わりさせるシーンを観て、他人の生命力を消費して能力を使うというアイデアを十年程前にネタ帳に書き込んだのが元になっています。
──北海道ネタも続々出てきますね。

柿本 札幌を舞台にするならとことんマニアックにしようと、通りの名や風景といった地元の部分を盛り込みました。北海道では羊をよく食べるので「羊」は地元ネタでもあります。見慣れている街を描写できるのでイメージしやすかったですし、十二月の話で、寒い空気感や主人公の孤独を助長して書けたのも札幌を舞台にした利点でした。普段住んでいる街に若干の歪みを持たせ、ちょっとずれた感じで人を書きたいと思っていました。

──桐也とヨウの関係性に焦点を当て、人間ドラマをメインにしたのはなぜですか。

柿本 実は、ミステリー以外の小説で応募したのは今回が初めてだったんです。ミステリーを書いては一次落ちばかりで、何がダメなんだろうと人に読んでもらったら、トリックに無理があると言われました。かなり落ち込んで、トリックを考えるのを一度やめようと思って。映画の構造を分析して、人間ドラマがメインだからこそ面白いのかなと思っていた時期だったので、トリックの代わりに人間ドラマを据えて書いてみました。謎のウエイトをなくした分、読者が飽きないようにと展開をきちんと考えて、要所要所に戦闘シーンを入れたり、説明しすぎて重めにならないようにしたり、とても気を使って書きました。

──そうしたら受賞で、びっくりしましたか?

柿本 びっくりしました(笑)。もう十年各賞に応募していて、去年は七作くらい出したんですけど、角川春樹小説賞の傾向を知らずに送ってしまい、歴史ものが多く受賞していると後から知ってカテゴリー・エラーと思っていたんです。最終候補に残ったと電話が来た時も何かのセールスかと思って(笑)、でもやっぱり落ちるだろうと思っていたら受賞と言われて、「嘘かな」と思いました。

──好きな小説や映画は?

柿本 中学生の頃は乙一先生やライトノベルを読んでいて、書店でふと読みたいなと買った京極夏彦先生の小説にいきなりはまりました。ミステリーは面白いなと、E・クイーンやA・クリスティを読んでいきました。映画はホラー、サスペンス、SF、アクションなど、ちょっと怖い感じのものが好きです。母はサスペンス系、父はアクション系と両親とも映画好きで、親が映画を観ている横にいて影響を受けたと思います。母がよく、『この子の七つのお祝いに』や『犬神家の一族』の話をとうとうと聞かせてくれたんですよね(笑)。子供の私は単語だけ覚えて、映画を観ていないのに佐清が好きだったり。

──自分で書くようになったのは。

柿本 文章には物心つく頃から触れていて、中学の頃から誰に見せるわけでもなく小説らしきものを書いていました。それがミステリーになった時期は覚えていなくて、京極夏彦先生や映画の影響でオカルト系のミステリーを書き、結構面白いね、出してみたら? と友達に言われて高校の時から投稿を始めました。仕事に就いても小説を書いて、応募歴が長くなるほど小説家になりたい気持ちが強くなりました。十年応募し続けて諦められなくなったというか、やめてしまったら今まで積み上げてきたものすべてが無駄になると、半ば執念で書いていました。今作では、ヨウが感情を持つことで起こる弊害も書いているんですけれど、高校時代に友達に読んでもらった話も似たテーマだったんです。

枠組みの外にいる人を羨ましく感じる気持ちが私の中にある。

──桐也は陰のある一匹狼で、ヒロインのヨウは生まれから特異な存在ですね。

柿本 人間の枠組みの外にいた存在が、人間に近づいていく話を書きがちなんです。無意識だと思うんですけれど、生きづらさを感じると共に、枠組みの外にいる人を羨ましく感じる気持ちがたぶん私の中にあると思うんです。別に犯罪を犯したいというのではなくて、何も気にしないような悟った人を羨ましいと思う。でも自分はそんな生き方はできなくて、憧れながらも枠組みの中で生きていくしかない。その差異、すれ違いが私の中にあって、書いて表現したいのかなと。今作の、感情がないままでいた方が幸せだったんじゃないかという部分も、自分の考えの表れだと思います。母を四年前に亡くして、今も喪失感を抱えています。闘病の三年間は病院に泊まったり、「感情がなければいいのに」と思い続けていたことがあって、その時の考えが盛り込まれたと思います。

──〈人間の生きる悲しみが漂い、小説の純粋性を保たせている〉(北方謙三選考委員)と評されていました。ただしお好きな傾向を見ると、書く作品はいずれにしてもエンターテインメントになっていきそうですね。

柿本 そうですね(笑)。受賞作はライトめなSFですが、本格的なSFも一度書いてみたいです。それからディストピアもの、社会がどこかおかしいという話にも挑戦してみたい。これが世の中の主流で当たり前ですからと言われても、ちょっとずれてるなと感じることは日常的にあるので、小説にしていけたらいいですね。警察もので、それこそ『羊たちの沈黙』のようなサスペンスも書いてみたいです。未来はどうなるんだろうと考えるのが好きで、何十年も先のことは分からないですけれど、想像しうる少し先の未来を考えるのが今作を通して楽しかったので、また別のかたちで近未来小説を書いてみたいとも思っています。

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柿本みづほ(かきもと・みづほ)
1991年生まれ。北星学園大学文学部心理・応用コミュニケーション学科卒業。本作にて第11回角川春樹小説賞を受賞しデビュー。北海道札幌市在住。

聞き手=青木千恵(書評家)/イラスト=みっちぇ(亡霊工房)

角川春樹事務所 ランティエ
2019年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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