「ドクターX」プロデューサーの言葉に宇賀なつみが共感 「“今の仕事は自分に合わない”と思っている人へ……」

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働く人の背中を 押してくれる一冊――内山聖子『私、失敗ばかりなので へこたれない仕事術』

[レビュアー] 宇賀なつみ(フリーアナウンサー)


宇賀なつみさん

 内山さんとは、テレビ朝日時代に何度かお仕事をご一緒させていただきました。“局内初の女性ドラマプロデューサー”なので「バリッとした男性っぽい方なのかな」と思っていたのですが、実際の内山さんは、優しくて内面の柔らかさがにじみ出た、魅力的な方なんです。

 内山さんが手がけたドラマは、『ガラスの仮面』を始め、いくつも見てきました。2004年の米倉涼子さん主演の『黒革の手帖』は、原作もドラマも大好きです。『ドクターX』の主人公・大門未知子はフリーランスの医師。どこにも属さないって、とても自由な一方、何があっても誰のせいにもできない怖さがあります。それでも彼女は一人で自分の信じる道を歩む。私も、会社を辞めて「独立」という挑戦をしようと思ったのには、未知子の影響があるかもしれません。内山さんは、いつもドラマを通して憧れの女性像を示してくれるんです。

 とはいえ私が知っている内山さんは、すでに“名プロデューサー”だったので、こんなに沢山の失敗をしてきた方だとは思ってもみませんでした。一番心に残ったのは、「失敗を恐れないで」というメッセージ。実は最近、私も仕事で「あぁ、失敗したな、私の力不足だな……」と思うことがあったばかりなんです。会社員の頃は毎日生放送があり、失敗が本当に怖かった。「フリーになったら、この恐怖から解放されるかな」と、少し思っていましたが、実際は初めてのことばかりで、今は新入社員の時のように失敗だらけの日々です。そんなタイミングで読んだこの本に、本当に救われました。「怖い」とか「失敗しちゃいけない」って思った瞬間から、新しい挑戦ができなくなるということを、再確認できたんです。

「好きなこともないのに、『今の仕事は自分に合わない』とか、『自分が望んでいる仕事じゃない』と思っている人は、その時点で負けている」という一節も好きです。やっぱり好きって感情が一番パワーになる。好きと思えるモノや人、仕事がいくつあるか、そして、それにどれだけ真剣に向き合えるのか、が人生の豊かさに繋がると思っているので、すごく共感しました。

 共感したという点では、ネットとの付き合い方についてもです。「ネガティブな意見は早く目を通して、徹底的に落ち込むと立ち直りも早い」と書かれていますね。私も、SNSなどで様々なご意見を頂きます。それはしっかり読んで、自分のダメな所を直そうと思っています。

 あと、内山さんの新人ディレクター時代、番組の職人さん達にハブられて困った時、一升瓶を持参して一緒に飲んで、距離を縮めたというエピソードも好きです。私は、お酒を飲みながらゲストとトークをする、『川柳居酒屋なつみ』という番組をやらせてもらっているくらい、お酒が大好き。一回お酒の席をご一緒すると、距離がグッと縮まるのは、いつも実感しています。最近、飲みニケーションがちょっと時代遅れに見られていますよね。もちろんお酒の強要は絶対ダメですけれども、「お酒の力を借りてもよし」と書かれていて、お酒好きとしては「やっぱり、このやり方、いいんだな!」と改めて思えました。

 また、内山さんも「自分で現場に足を運んで信頼関係を結んだ」と書かれているのを読んで、25歳ころ、『報道ステーション』で気象担当からスポーツ担当に移った時のことを思い出しました。スポーツについて全く知識が無く、取材に行っても自分の居場所を見つけられなくて、本当に辛かった。ゴルフだったら、「バーディって何?」という所からのスタートだったので。体はストレスに正直で、当時はお肌はボコボコだし、実は白髪がすごく増えていました。でも「とにかく状況を変えよう」と思って、スポーツ雑誌を読んだり、週3回は一人で現場に取材に行くようにしたんです。そうしたら、だんだん仲間ができて仕事がすごく楽しくなった。ここは、内山さんと似ているかもしれません。

 私のテーマは「人生は面白い方がいい、ドラマチックな方に向かいたい!」です。社会人でそう言っていると「もっと大人になりなさい」とたしなめられることもある。でも、この本でも、まさに「大人になんて、ならない方がいい」と書かれていて嬉しくなりました。

 こういう風に、この本で今まで「これでいいのかな?」と不安に思っていたことの「答え合わせ」ができて、ホッとする気持ちになりました。全ての働く人の背中を押してくれる一冊です。

 ※働く人の背中を 押してくれる一冊――宇賀なつみ 「波」2019年11月号より

新潮社 波
2019年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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