戦後すぐの古書店街が舞台の極上ミステリ『定価のない本』門井慶喜

レビュー

4
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

定価のない本

『定価のない本』

著者
門井 慶喜 [著]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784488028039
発売日
2019/09/20
価格
1,870円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

戦後すぐの古書店街が舞台の極上ミステリ『定価のない本』門井慶喜

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 古書を扱ったミステリは数々あれど、その中で本書は、一、二を争う傑作である。

 作品の舞台は、いわずと知れた神田神保町(かんだじんぼうちよう)。ようやく活気を取り戻しつつある、敗戦からちょうど一年の昭和二十一年八月十五日のこと。古本屋の芳松(よしまつ)が崩れてきた本に圧しつぶされて死んだ。このことを芳松の妻タカから知らされた同業者の琴岡庄治(ことおかしようじ)は現場に急ぐがどこか割り切れないものを感じる。

 続いてタカも首をくくって謎はますます深まる。

 そんな折も折、庄治は日本の古典に興味を抱くGHQのJ・C・ファイファー少佐から「ヨシマツは、ソ連のスパイだった」と知らされる。

 この時点で作品がどちらの方向に転がっていくか分からないが、読書を途中でやめることはできなくなる。さまざまな人物が入り乱れ、抜群の兇器の始末が行われ、とうとう、本当の黒幕が姿を現す。

 が、何と敵の正体と目的が分かってからが、さらに面白くなるのだから舌を巻く。

 たった一人の“抵抗軍”が二人となり、やがて神保町のすべての古書店を巻き込み、それは日本中に飛び火していく。

 ラスト近くの独白はどうだ――。

あともうちょっとほんのちょっと我慢してくれれば、俺たちのいま抱えてる大量の在庫がふたたび、日本人のコレクターや大学教授や、教養ある実業家などの書架に収まるところが見られたのに。/日本人が本を愛し、古典を愛し、そのことで国そのものを立ちなおらせるところが見られたのに。GHQに勝ったのは俺たちじゃない。文学を愛し、文学をとうとぶ日本人、日本の歴史そのものなんだ。

 この感動、正に「七人の侍」級といえよう。

光文社 小説宝石
2019年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加