『英国名門校の流儀』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
【聞きたい。】松原直美さん 『英国名門校の流儀 一流の人材をどう育てるか』
[文] 喜多由浩(産経新聞社 文化部編集委員)
■国背負うリーダーの覚悟育む
イートン、ハーロウ、ラグビーなど、パブリック・スクールと呼ばれるイギリスの名門私立中高一貫校は狭義の定義なら約30校しかない。同世代の1%以下という極めつきのエリート、歴代首相の約7割はOBだ。著者が勤務した男子校ハーロウは名宰相、チャーチルの出身校である。
いずれも少数精鋭でハイレベルな教育環境。ハウスと呼ぶ寄宿寮生活で絆を強め、紳士としての礼儀やマナーを身に付ける。文武両道をモットーとし、スポーツや芸術も盛ん。そのかわり学費はかなり高い(ハーロウ校の場合、寮費を含めて年間約600万円)。
「強調したいことのひとつに、教員の質の高さがあります。社会的な地位や給与は高く、NASA(米航空宇宙局)や世界的な研究所、弁護士などから転職してくる人もいる。人格や気力、体力面もすごい。何しろ学期中は24時間フル稼働している感じですから」
パブリック・スクールの重要な使命として将来、政治、経済、軍事などの分野で、国を背負い、国益や国民を守るリーダーを育てることがある。「偏差値を上げるために勉強しているのではありません。国家を背負う覚悟や責任感を育み、立場を知る。ノブレス・オブリージュ(高貴なる者は義務を負う)ですね」
かつて日本にも同じような役割を担った旧制高校があった(昭和25年廃止)。こちらも、同世代の1%以下(全国で30校強)、寮生活も同じ。だが、今では、教育の機会均等の名の下に、大学進学率が50%を超え、大衆化・低レベル化も叫ばれている。
「イギリスでも、一部の富裕層しか入れないことなどへの批判はありますが、何百年も続いてきたパブリック・スクールの基本線は変わらないでしょうね。日本で同様の学校をつくるには教員の待遇改善が求められると思う。多くの生徒を見なければならない日本の先生は忙しすぎるし、給料も高いとはいえません」(新潮新書・760円+税)
喜多由浩
◇
【プロフィル】
まつばら・なおみ 昭和43年生まれ。上智大、早大大学院で学ぶ。2014~18年まで英ハーロウ校で日本語講師を務めた。現在ブラジル在住。