入試も年齢制限もない混沌とした「芸術のゆりかご」の貴重な証言集

レビュー

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美学校1969-2019

『美学校1969-2019』

著者
美学校 [編集]
出版社
晶文社
ジャンル
芸術・生活/芸術総記
ISBN
9784794970961
発売日
2019/08/14
価格
2,970円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

入試も年齢制限もない混沌とした「芸術のゆりかご」

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 美学校は、東京の神田神保町にあるちょっと変わった学校だ。もともとは、現代思潮社(出版社)が税金対策のために、また当時の大学紛争でドロップアウトした人たちに技術を身につけさせようと開校したそうだが、その後行き場のない情熱のはけ口を探すようにして人が集まり、混沌とした「芸術のゆりかご」に成長する。この本は、美学校の講師や生徒としてそこにかかわった人々の証言集である。美学校は、組織として公的な記録をあまり残していない(自らに正当性を求めないため、歴史化を拒否してきた)ので、これらの証言は貴重なものだ。

〈どの先生も、バカな生徒に「わかりやすくかみくだいた」話し方など一切しませんでしたし、そもそも講義の内容のレベルを生徒に合わせようという気持は金輪際にお持ちでなかったと思います〉という南伸坊の言葉が、この学校のよさを端的に物語る。制度としての学校教育が「すべての生徒にひとしく教え込む場」だとするなら、こちらは「勝手に盗んで成長できる者のために開かれている場」だ。つまり学校教育の裏ワザみたいなことが行われているわけなのだ。もちろん、技術を伝授するタイプの講座もあるけれど。

 開校初年度の講師陣は、粟津則雄や澁澤龍彦、埴谷雄高などそうそうたる顔ぶれ。土方巽も唐十郎も、赤瀬川原平もいた。その後講座の編成は変転するが、やがて会田誠や菊地成孔も来て、「いま」の雰囲気はつねに更新されていく。いっぽう生徒はといえば、入試も年齢制限もない学校だから、どんな人でも入学できる。高校や大学を卒業してから来る人、ダブルスクールの人。フリーターや社会人、主婦、留学生もいる。〈下は10代から上は最高齢で80歳〉だそうだ。みんな、混沌の海に跳び込み、自分自身を撹乱するために来るのだ。こんな学校が潰れずに残っていることが、とにかく頼もしくてうれしい。これからもがんばれ美学校!

新潮社 週刊新潮
2019年10月31日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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