漫画の手法を駆使して放射能の歴史を綴った「光の子ども」第3巻

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光の子ども 3

『光の子ども 3』

著者
小林エリカ [著]
出版社
リトル・モア
ISBN
9784898155110
発売日
2019/09/05
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

社会に歓迎される発見の陰に潜む女性科学者たちの努力と葛藤

[レビュアー] 大竹昭子(作家)

 これまでにない書き方で放射能の歴史を綴った小林エリカの『光の子ども』シリーズ。その第三巻が刊行された。ジャンルとしては漫画に分類されるが、そこに収まりきらない新しい表現を感じさせる。

 最初の二巻では、二〇一一年に福島で生まれた少年光と片目の猫エルヴィン、被曝した妹真理が登場。私たちが直面する現実と、科学的発見が劇的な勢いでなされた一九〇〇年代初頭の時代状況が、少年の時空を超える能力により結ばれた。

 そして第三巻は、毒ガスが開発され、戦場でそれが使われた第一次世界大戦のシーンではじまる。毒ガスをつくったフリッツ・ハーバーの妻は同じく科学者だったが、夫の行為に心を痛めて自殺。ラジウムの発見者マリ・キュリーは娘イレーヌとともにX線装置を載せた車で前線を巡り治療に参加。のちに核分裂を発見し“原爆の母”と名指しされた女性科学者リーゼ・マイトナーも、X線技師兼看護婦として従軍、傷痍兵の現実に悲嘆する。

 著者が着目するのは、女性科学者たちの陰なる努力と葛藤であり、科学的発見が社会に歓迎され、それが製品となって拡大するときの異様な熱気とすばやさだ。一九二二年にはアインシュタインが来日するが、相対性理論が流行語になり、若い女性は彼に熱狂。理論物理学が現代のAIなみに話題をさらったのだった。

 膨大な資料を読み込み、その中から必要な事項を抜きだし、それらをコマ割り、吹き出し、効果線、描き文字の擬音など、漫画の手法を駆使して描きだす。のみならず、記録写真、計算式、家系図、相関図、周期表などもレイアウトされ、見開きページがひとつのアート作品のようだ。

 既成の漫画表現を大きく踏み出しつつも、そこには漫画に影響を受けた世代の確かな足どりがうかがえる。大英博物館の漫画展が大変な人気を集めたそうだが、漫画は今やこんなにも自由に羽ばたいているのだ。

新潮社 週刊新潮
2019年10月31日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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