「アメリカ〈黄金時代〉の影に光を当てたミステリ作家たち」

レビュー

5
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  • 生まれながらの犠牲者
  • 彼女が家に帰るまで
  • さむけ

書籍情報:版元ドットコム

謎解きの妙味とサスペンス 心を打ち砕く警察捜査小説

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 声を奪われた者の叫び。それを聞くために『生まれながらの犠牲者』(法村里絵訳)という小説は書かれたのだ。

 本書は米国の作家ヒラリー・ウォーが一九六二年に発表した作品で、警察署長フレッド・C・フェローズが主人公を務めるシリーズの第五作に当たる。

 ある晩フェローズの自宅にバーバラという十三歳の少女が行方不明になった、という知らせが入る。バーバラは姿を消す前の晩、生まれて初めて正式なダンスパーティに参加していたという。成績優秀で美少女と評判のバーバラの身に、一体何が起こったのか。

 警察捜査小説としての幹の太さが魅力だ。フェローズの捜査はあらゆる可能性を検討しては行き詰まる、というくり返しを見せる。謎解きの妙味と、全貌がなかなか見えないサスペンスが交錯し、最後まで緩まずに物語が進むのだ。

 ウォーの小説では、登場人物がなぜそのような状況に追い込まれたのかを考えることが重要な鍵となる。本書でもこの「なぜ」は明かされるのだが、それは現代の読者が読んでも心を打ち砕かれるものだ。個人では抗うことの出来ない残酷な現実を、ウォーは物語の終幕で示す。

 ウォーは、〈黄金時代〉と呼ばれた五〇年代の地方都市が持つ影に関心を寄せた作家だ。同様の志を持って書かれた作品としてローリー・ロイ彼女が家に帰るまで』(田口俊樹・不二淑子訳、集英社文庫)がある。五〇年代の終わり、衰退の兆しが見えるデトロイトで起こった白人女性の失踪と黒人女性の撲殺事件。コミュニティに隠された裏の顔が多面的に描かれていく小説だ。

 ウォーやロイが街を切り口に五〇年代米国の暗部を写し取った作家だとすれば、家族という共同体の最小単位から闇を見つめたのがロス・マクドナルドである。一九六四年発表の代表作『さむけ』(小笠原豊樹訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)をはじめ、〈私立探偵リュウ・アーチャー〉シリーズでは「豊かで幸福な米国の家族」像に対する問題提起を、緊密な人捜しミステリのプロットとともに描いている。

新潮社 週刊新潮
2019年10月31日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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