人間関係や転職活動を「うまくやる」ためのコミュニケーションデザイン
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
「職場や学校が自分に向いていない」
「がんばっても成績が上がらない」
「違う世代と話が合わず、浮いてしまう」
「就職・転職活動がうまくいかない」
「友だちのようにSNSで共鳴してもらえない」
「自分のやりたいことがわからない」
たとえばこのように、うまくいかない「壁」は存在するものです。
しかもそんなときには、「自分が悪いんだ」「自分の努力が足りないからだ」と諦めてしまったり、必要以上に反省ばかりしてしまうこともあるでしょう。
しかしそれは自分の責任ではなく、相手やものごとに対するアプローチに問題があるだけのこと。
そう主張しているのは、『うまくやる ~コミュニケーションが変わる25のレッスン~』(熊野森人 著、あさ出版)の著者です。
こうしたことをコミュニケーションを通してうまく解決していく方法、それが本書で紹介する『うまくやる』方法です。
専門的に言えば、これは心理学や認知科学の領域でもあり、人と人との間に生まれる関係性をデザインしていく「コミュニケーションデザイン」と言われる手法のひとつです。(「はじめに」より)
著者は、クリエイティブディレクター兼大学講師。つまり、本書のベースになっているのは、長年にわたってプランニングや、広告制作、大学での講義を通して培ってきたコミュニケーションデザイン。
それらの考え方に基づいて、「がんばっているのに、なかなか結果が出ない」「うまくいかない」ことがらなどの「壁」を乗り越えるためのヒントを明かしているわけです。
きょうはChapter 3「コミュニケーションをデザインして、うまく伝える」のなかから、「はじめてのことをうまくやる4つのステップ」をクローズアップしてみたいと思います。
「はじめてのこと」をうまくやる4つのステップ
なにから手をつけていいのかわからなかったり、間違えたら大変だと緊張してしまったりすることもあるだけに、「はじめてのこと」についてはなかなか自信が持てないもの。
それどころか、「うまくできない」と思い込んでしまうこともあるかもしれません。
しかし、それは考えすぎ。きちんとステップを踏みさえすれば、うまくできるようになるのだと著者は断言しています。
だとすれば、そのステップとはどのようなものなのでしょうか?
まずステップ1は、「人を観察する」。仕事でも勉強でも趣味でも、先にそれをうまくやっている人を観察するということ。
しかも「上手だな」「作業が速いな」「まとめ方が上手だな」というような感想レベルでの観察ではなく、もう少し細かい部分、真似できそうな部分を探してインプットするべきだということです。
たとえば「先輩の田中さんは、発送作業の手間がいいな」とか、「もうひとりの先輩の鈴木さんは、場を和ませるのが得意で、お客様対応もうまいな」など、周囲の人のことを観察するわけです。
その際、できるだけ感じ取ったことを忘れないように、メモや写真、動画に残すといいそうです。
「観察」から「仮説」へ
それができたら、次に進むべきステップ2は「仮説を立てる」。
ステップ1の観察から得た情報を頼りに、考えられるだけの仮説を立ててみるということです。上記の例で考えてみましょう。
田中さんは、いつも鈴木さんより箱詰めの作業が早く終わるけれども、それは目線の配り方のコツがあるからかもしれません。
つまり数秒先にやることを先回りしているから、次の動作へスムースに移れるのだろうということ。
そして鈴木さんは、田中さんより人とのコミュ二ケーションが上手。いつもニコニコしていて、気配りがすごい。
そのように観察した結果、「田中さんは仕事は速いけれど、人と話すのは得意ではないのではないか?」「鈴木さんは、あの笑顔で人を惹きつけているのではないか?」という仮説が立てられるわけです。
自分はどうしたいのか、なにを実行するのか
そうやって得られたステップ2の仮説に基づき、次に考えるべきはステップ3「自分はどうしたいのか」。
文字どおり「自分はどうしたいのか」ということと、「なにを実行するのか」を決定するということです。上記ステップ2で挙げた例でいうと、
「田中さんの作業効率を見習って、自分も作業効率を上げたいのか?」
「鈴木さんのようなコミュニケーション能力を上げたいのか?」
そういった仮説を目的と照らし合わせ、「それに対してどうしたいのか」を意思決定するということです。
そして、それができたらステップ4「やってみる」へ。ステップ3で決めたことを、ステップ2の仮説をもとに真似してやってみるわけです。
もしうまくできなかったとしたら、細部まで観察、研究できていないか、それに対して繰り返し練習できていないかのどちらかだといいます。(120ページより)
うまくできた自分をほめる
ところで、なにかをできない場合、「やり方がわからない」から、「できない」となってしまうことも多いのではないでしょうか?
とはいえ、気合を入れたりしたところで、できないものができるようになるわけでもありません。
だからこそ、やり方がわからない人は、やり方をよく見て(よく調べて)真似ればいいということ。そして、それができるようになったら、自分をほめるべきだと著者は記しています。
当たり前のことだとはいえ、「真似する→できる→ほめる」というステップはとても重要。
それは、コンサルティングにおける課題解決のフレームの基本だというのです。(124ページより)
実際には会話形式で話が進められるので、肩肘を張らず楽な気持ちで読み進めることができるはず。
コミュニケーションがうまくいかず悩んでいる方は、手にとってみてはいかがでしょうか?
Photo: 印南敦史
Source: あさ出版