「生類憐みの令」の真実…仁科邦男著 草思社

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「生類憐みの令」の真実

『「生類憐みの令」の真実』

著者
仁科 邦男 [著]
出版社
草思社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784794224132
発売日
2019/09/20
価格
1,980円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

「生類憐みの令」の真実…仁科邦男著 草思社

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

 江戸幕府の五代将軍・徳川綱吉の治世には、後世「忠臣蔵」として広く知られることになる赤穂事件があった。四十七士の吉良邸討ち入りがクライマックスになる忠臣蔵は何度もNHK大河ドラマの題材になり、当代の人気俳優を配したオールスター映画にもなっている。

 そうした数々のフィクションのなかで、綱吉はほぼ常に悪役、「生類憐(あわ)れみの令」という悪法で庶民を苦しめた横暴でエキセントリックな権力者として描かれてきた。ドラマや映画のなかで、野良犬から子供を守った浪人が処罰されるなど、非道で理不尽な場面を見たことのある方は多いはずだ。私もその一人である。

 ところが近年になって、「綱吉は文治国家の礎を築いた名君だった」「生類憐れみの令は稀代(きだい)の悪法だという歴史認識は間違っている」という説が多くの支持を得るようになってきた。今ではこちらの方が多数説なのだそうだ。多くの辞書・事典類、高校教科書もこの見直し論に転じているというのだから驚きである。しかし、著者はまずこの流れに再考を促すところから本書の論考を始める。

 そもそも私たちは「生類憐れみの令」をちゃんと知っているだろうか。どういう発想で作られ、どのように施行されていたのか。本書はそれを、フィクションのベールを丁寧にはぎながら、つぶさに教えてくれる。まさに「真実」の連打で、第一章からびっくりだ。二十六歳で鷹(たか)狩りをやめ、コイやフナやウナギを料理して食べるのを禁じることから始まった綱吉の生類を慈しむ治世は、私にはやっぱりグロテスクに思えた。

 本書は敷居の高い専門書ではない。史料は全て易しい現代文に直されていて、気軽に読むことができる。これまでの思い込みがひるがえされてゆくプロセスは、優れた謎解きミステリーにも通じていてエキサイティングだ。ぜひ味わってみていただきたい。

 

 ◇にしな・くにお=1948年生まれ。毎日新聞で出版担当出版局長などを歴任。2005~11年に毎日映画社社長。

読売新聞
2019年10月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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