オーガ(ニ)ズム…阿部和重著 文芸春秋

レビュー

3
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オーガ(ニ)ズム

『オーガ(ニ)ズム』

著者
阿部 和重 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163910970
発売日
2019/09/26
価格
2,640円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

オーガ(ニ)ズム…阿部和重著 文芸春秋

[レビュアー] 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

 本書は、「阿部和重」という作者と同じ名前を持つ主人公が躍動する、ミステリー仕立ての小説である。859ページにおよぶ長さながら、最後まで読者を決して飽きさせない面白さは、作者の輝かしいキャリアを大きく更新する。

 物語は、雑誌編集者を名乗る米国人男性ラリー・タイテルバウムが「阿部和重」のもとを訪れる、2014年3月3日の夜から54日間にわたって繰り広げられる。米中央情報局(CIA)に所属するラリーは、主人公の故郷・山形県神町にいる菖蒲家の監視を目的にしている。

 神町では日本の首都機能移転のための再開発が進んでおり、そこを訪れる予定の第44代米国大統領バラク・オバマを救わねばならない。

 「完全なるフィクション」と作者は書くものの、作中では、国際情勢のほかオバマの訪日や私生活をめぐる実在のウェブニュースがたびたび引用される。神町をはじめとする地名や、主人公の経歴など、現実と重なる部分が多い。

 もちろん首都移転そのものが作り話であり、そのきっかけとなる「永田町直下地震」も起きていない。さらに、設定から26年後の世界さえ描かれる以上、作り話と受け取るほかない。

 読者は、本書を『シンセミア』『ピストルズ』に続く「神町トリロジー(三部作)」の完結編として、登場人物の再来を懐かしみつつ読み終えれば、務めを果たせるのかもしれない。

 しかし、それだけでは、この大作を手にする喜びが減ってしまう。

 映画『キル・ビルVol.2』にちなむ比喩や、タレント稲川淳二作品の再生、といった、多くのオマージュや謎が仕掛けられており、読者に自由な読みをうながしている。

 デビュー以来、作品ごとに自らの小説技法をブラッシュアップしてきた著者は、今回もまた、作中での自作への言及をはじめ、文学の射程を広げる勤勉さと大胆不敵な試みを見せる。その懐の深さを堪能できる傑作にほかならない。

 ◇あべ・かずしげ=1968年生まれ。小説家、映画評論家。著書に『グランド・フィナーレ』など。

読売新聞
2019年10月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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