ルポ 平成ネット犯罪 渋井哲也著

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ルポ 平成ネット犯罪

『ルポ 平成ネット犯罪』

著者
渋井 哲也 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784480072528
発売日
2019/09/05
価格
946円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ルポ 平成ネット犯罪 渋井哲也著

[レビュアー] 麻生晴一郎(ルポライター)

◆生きづらさ我が事として

 平成はパソコン、インターネット、携帯電話、スマホの普及と同時にインターネットを媒介とした殺人、いじめなどの事件が社会問題化したネット犯罪の時代でもあった。本書は「京都メル友殺人事件」(平成十三年)、「秋葉原無差別殺傷事件」(二十年)、「座間市男女九人殺害事件」(二十九年)など、さまざまなネット事件を取り上げ、裁判記録やネット資料、当事者たちへの取材を通じて彼らの心情に迫り、事件に共通するものとして彼らが抱えた「生きづらさ」を挙げている。

 生きづらさはネット犯罪の当事者特有のものではないはずだ。本書の数々の事件を読み返すだけでも、平成という時代が持つ独特の疎外感や孤独化がよみがえる気がした。

 日常の世界で疎外感や孤独を感じる人たちにとって、インターネットこそは居場所になり得る。しかし、本書が言うように、ネットの大衆化が進むにつれ、いじめや差別、犯罪など、現実世界の負の側面がネットにも入り込んできて、かえって生きづらさを助長し、犯罪を誘発することもある。こうしたことは令和の時代にいっそう顕著になりそうで、ますます多くの人が事件の当事者と同じ境遇に陥る可能性がある気もしてくる。

 だとすれば、事件の当事者を自分たちと無関係な特殊な人とみなし、非の打ちどころのない人間の立場から批評やケアをするのではなく、誰しもがネット犯罪の当事者に陥る可能性があるという前提で、当事者の心情や事件の背景を知り、その上で対策を立てることが、犯罪を予防する上で欠かせないはずなのだ。

 たとえば、秋葉原の事件の犯人にとってネットの世界は現実の居場所であり、その居場所をつなぎとめようとして事件を起こしたことや、座間の事件の被害者たちが生きることの深い絶望感から犯人に近づいたことなどは、身の回りでも起こり得ることではないのか。逆境に陥ってしまった人にとって、彼らを一般の人とは無関係な異端と決めつけた上での分析や対策がいかに役立たないかを、本書は明解に示しているように思う。

(ちくま新書 ・ 946円)

1969年生まれ。ジャーナリスト、中央大講師。著書『ネット心中』など。

◆もう1冊 

渋井哲也著『実録・闇サイト事件簿』(幻冬舎新書)

中日新聞 東京新聞
2019年11月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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