ハードボイルドファンなら思わず目を細める人気シリーズ

レビュー

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  • さすらいのキャンパー探偵
  • 添乗員さん、気をつけて 耕介の秘境専門ツアー
  • 戯作屋伴内捕物ばなし

書籍情報:版元ドットコム

ファンなら思わず目を細めるハードボイルドの本格派

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 今回は統一性のとれたテーマの文庫が見つからなかったので、最近読んだお気に入りの三冊を紹介したい。

 香納諒一『水平線がきらっきらっ』は、三ヶ月連続刊行の〈さすらいのキャンパー探偵〉シリーズの第二弾。表題作は新東宝末期の傑作ハードボイルドアクション映画『地平線がぎらぎらっ』を踏まえており、ミステリファンならずとも映画マニアなら気になるところだ。このシリーズ、各々の巻に三つの中篇が収められており、フィリップ・マーロウの心を持った男、辰巳翔一の行動にハードボイルドファンなら思わず目を細めてしまうだろう。すでに三冊目も刊行されており、読むのが待ち遠しくてたまらない。

 次は小前亮『添乗員さん、気をつけて』(ハルキ文庫)。添乗員といってもただの添乗員とは訳が違う。主人公・国枝耕介は、会社に属さないプロの添乗員プロテン。特に「秘境専門ツアー」を企画する東栄旅行には重宝されている。ところが、この秘境ツアー、目的地より、客の方が秘境めいた人物ばかり。まるで災厄を連れて来るようで、耕介も命からがらの目にあう人迷惑なカップルが登場したり、ラストでちょっとしたひねりのきいた覆面作家が登場したり。さらには、宗教観や文明批評がちりばめられていたりと、昨今、流行のお仕事小説でもその質が違う。

 最後は、翻訳ミステリの老舗、早川書房が立ち上げた新レーベル〈ハヤカワ時代ミステリ文庫〉から選んでみた。創刊第一弾は、稲葉一広『戯作屋伴内捕物ばなし』、誉田龍一『よろず屋お市 深川事件帖』、稲葉博一『影がゆく』の三冊だが、以後、月に二冊ずつ刊行されるらしい。

 今回は、『戯作屋伴内捕物ばなし』を取り上げてみたい。小男で化け物や捕物に目のない伴内は、作者によって、一見、ユーモラスな人物に造型されている。これも、江戸の怪異と好対照を成し、謎ときの中にユーモアや人情の回路がきちんと一本通っている。また、作者はかなりの落語通らしく、ドタバタ騒ぎの後の余韻も捨て難い。

新潮社 週刊新潮
2019年11月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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