懐良親王…森茂暁著 ミネルヴァ書房

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懐良親王

『懐良親王』

著者
森 茂暁 [著]
出版社
ミネルヴァ書房
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784623087419
発売日
2019/08/23
価格
3,850円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

懐良親王…森茂暁著 ミネルヴァ書房

[レビュアー] 本郷恵子(中世史学者・東京大教授)

 中世の天皇家では、皇太子となる者以外のほとんどの男子は寺院に送られ、宗教界で一生を過ごした。そのため親王が政治的・社会的に活躍する姿はほとんど見られないのだが、後醍醐天皇の息子たちは例外である。彼らは父後醍醐の分身として、倒幕運動や北朝との戦闘を指揮するために、全国に散らばっていった。

 延元3年(1338年)は、後醍醐軍の支柱であった北畠顕家・新田義貞が戦死し、南朝にとっては試練の年となった。その挽回策のひとつとして、本書の主人公懐良(かねよし)親王は九州へと送り出された。九州・四国地方平定を担う「征西大将軍」の名を与えられての派遣だったが、側近の五条頼元以下、つき従う者はわずか12名。支持者を頼り、味方を募り、幾多の戦闘を潜(くぐ)り抜けて、ようやく九州統治の拠点となる大宰府に入ったのは正平16年(1361年)のことだった。以後12年にわたって、懐良はこの地に「征西府」を構え、九州支配の全盛期を迎える。1368年建国の明が、東アジア諸国に朝貢を求めた際、日本への使者が向かった先は「日本国王」懐良のもとだったのである。

 首都である京都から遠く離れ、むしろアジア大陸との近縁性が強い地政的条件のもとで、九州武士たちは独自の自立性を求めた。この特質を著者は「九州の論理」と呼ぶ。彼らにとって中央の権威は相対的なものでしかなく、そこに反体制的貴種である懐良親王のもとに集結する理由があった。

 著者は長崎県の生まれで、人生の大半を九州で暮らしてきた。意外なことに「九州の中世」をテーマに執筆するのは、これが初めてだという。本書は江戸時代以来の征西将軍宮研究史を整理し、多くの史料を余すところなく検討して、南北朝期九州の複雑な勢力図・征西府の興亡をあきらかにしている。「変革エネルギーの噴火口」として歴史を動かした九州の姿を描き、九州愛を感じさせる一冊といえるだろう。

読売新聞
2019年10月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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