こども哲学ハンドブック…こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ著 アルパカ

レビュー

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こども哲学ハンドブック…こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ著 アルパカ

[レビュアー] 山内志朗(倫理学者・慶応大教授)

 評・山内志朗(倫理学者 慶応大教授)

 大人が見過ごしていることに、こどもが気づき、それを大人に問いかけ、「なぜなぜ」の連続で、大人を往生させる。

 哲学の問いは「謎」の構造を持っている。「謎」とは、答えがたくさんあり、しかも答えがさらに多くの問いかけを生んでいく。問題の中にさらに多くの問題が隠れていることに気づいて、世界が豊かになっていく。

 こども哲学とは、こどものための哲学であると同時に、大人のための哲学だ。哲学するためには、こどもにならなければならないから。海外では、一九七〇年代以降普及しているが、哲学の心理的ハードルを低くし、みんなのものにする効果を持っているからだ。

 大人は常識やら世間のしきたりに頼って、あまり考えないで、答えを決めつけてしまう。忙しい日常のなかでは確かにいちいち悩んではいられない。仕事は進まなくなる。

 そういう日々の連続で人は満足できない。謎について考えて答えが出るわけではない。むしろ分からないことが増えてくる。

 だが、その分からないことこそ、こだわるべきところで、それを世界の中に見出(みいだ)し、手がかりにすることで、世界と関わり強くなる。「なぜ」という問いかけなしには、世界はノッペラボーのままだ。

 哲学は孤独な理性を基礎にしてきた。「哲学カフェ」はその反省から生じた。哲学は一人ではできない。「哲学カフェ」がおとな哲学だとすれば、こども哲学は、みんなが輪になって分からないことを語り合うことだ。哲学は共有され、新たなものを生み出す力になる。

 本書では「絶対におばけなんかいないって言えるか?」「友達は多くつくるべきか?」などの例が出され、問いを立てて、みんなで語り合う具体的な方法が書かれている。楽しくて実践的で、しかも新鮮な哲学書だ。哲学する「こども」がたくさん増えることを願う。

読売新聞
2019年10月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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