芝園団地に住んでいます…大島隆著 明石書店

レビュー

5
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

芝園団地に住んでいます

『芝園団地に住んでいます』

著者
大島 隆 [著]
出版社
明石書店
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784750348940
発売日
2019/10/01
価格
1,760円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

芝園団地に住んでいます…大島隆著 明石書店

[レビュアー] 加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

 世界に「もやもや感」が立ちこめている。トランプ政権の誕生、英国のEU離脱問題、移民排斥論、「自国産テロリズム」。根底には、隠微な感覚がある。

 著者は朝日新聞の政治部次長。前妻と子どもが暮らす米国社会の変容に危機感をもち、「もやもや感」を見極めるため、2017年1月から埼玉県川口市の芝園団地で暮らしている。団地の住民約5000人のうち、半分弱は高齢化が進む日本人、半分強は外国人だ。著者は、住民の1人として自治会活動に加わり、内側から住民を観察する。

 SNS上で語られる「中国人に乗っ取られた」「マナーゼロ」などの否定的イメージは、実像とかけ離れている。新聞やテレビによる「中国人住民が増えて一時はトラブルが増えた団地だが、大学生のボランティア団体や自治会の取り組みによって、交流が広がっている」という好意的な報道は事実だが、「取材する側」の視点ではとらえきれない複雑な空気の構造がある。

 8月の暑い盛り、団地の広場で行う祭りの準備や運営は、高齢化が進む日本人の自治会が行う。中国人住民の多くはIT技術者とその家族だが、ほとんど自治会に入っていない。祭りの当日を楽しむのは中国人のほうが多い。日本人は、中国人は「ただ乗り」している、と思う。一方、中国人住民には運営に加わってほしくない、という矛盾した思いもあり、災害時の避難所の分割案など、言動の端々にあらわれる。

 著者は、団地の中国人住民の「社員旅行」に参加し、中国人の目線にも身を置き、見えない壁の構造を解明する。中国の富裕化によって日本で働く中国人が減り、他の外国人に置き換わる可能性も指摘する。

 無理に交流せず棲(す)み分ければよいという「共存」か、壁を越えて交流と協力を進める「共生」か。今日も試行錯誤を続ける「芝園団地は世界のいまであり、日本の近未来でもある」。

読売新聞
2019年10月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加