『Think CIVILITY : 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』
- 著者
- Porath, Christine Lynne /夏目, 大, 1966-
- 出版社
- 東洋経済新報社
- ISBN
- 9784492046494
- 価格
- 1,760円(税込)
書籍情報:openBD
印象の4割は声や話し方で決まる? 「礼儀正しさ」を重んじるだけで仕事の成果は上がる
[レビュアー] 鈴木拓也
「なんだ、この最低な企画書は!」とか「何回言ってもわからないんだね~」といった、職場で飛び交う無礼な言葉。
性格も価値観も異なる人たちが一緒に働く場だから、こんな気の滅入る言葉でも甘受すべきだと信じていませんか?
実は、こうした職場の無礼な言動が、社員や企業に想像を超えるダメージを与えているのです。
「礼儀正しさ」の効用を説いたベストセラー
そう指摘するのは、日本でもベストセラーとなっている『Think CIVILITY 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』(東洋経済新報社)の著者、クリスティーン・ポラスさんです。
ジョージタウン大学マクドノー・スクール・オブ・ビジネスの准教授として教鞭をとるポラスさんのライフワークは、「活気ある職場作り」。
これまで、Googleやピクサーといった名だたる企業や、国際連合や米労働省などで講演・コンサルティングを行ってきました。
その中心となるテーマの1つが、本書のタイトルにもある「CIVILITY(礼儀正しさ)」なのです。
無礼さはどれだけのダメージをもたらすのか?
ポラスさんが同僚と実施した調査によれば、職場内の誰かから無礼な態度を取られている人には、以下のような悪影響が見られるそうです。
48%の人が、仕事にかける労力を意図的に減らしている
38%の人が、仕事の質を意図的に下げている
80%の人が、無礼な態度を気に病んでしまい、そのせいで仕事に使うべき時間を奪われている
66%の人が、自分の業績は低下していると答えている
さらには、約10%の人が、他人の無礼な態度が原因で転職したことがあるそうです。
外部の顧客も、無礼な社員を見てしまうと取引を敬遠するという調査結果もあり、無礼さは、個人・組織のパフォーマンスを押し下げる元凶の1つと言えそうです。
「礼儀正しい」ことのメリットとは?
いっぽうで、ポラスさんは無礼とは逆の場合、つまり「礼儀正しい」ことによるメリットをいくつも挙げています。
それは、個人レベルでいえば「仕事が得やすい」「幅広い人脈が築ける」「出世の可能性が高まる」の3つ。
普段から礼儀正しくしていることで、周囲から声がかかりやすくなり、結果として能力を証明する機会も増え、良い評判も広まりやすくなります。人的ネットワークも広げやすく、貴重な助言や情報を得られるチャンスが増します。
さらに、「リーダーにふさわしい」とみなされ、組織の階段をスムーズに上りやすくなります。
もしかすると、「ちょっと無礼でイヤな奴に思われるくらいが、人の上に立つ器だとみなされるのでは?」と思っている人もいるかもしれませんね。何人かの癖のあるカリスマ経営者を思い浮かべる人もいるでしょう。
しかし、ポラスさんはそうしたマキャベリズムを体現したようなリーダー像は、「現代には当てはまらないらしい」と述べています。
いくつかの調査により、失敗するリーダーの多くには、無神経、人を不快にさせる、弱い者いじめをする、という共通の性質があるとわかっている。
またその次くらいに多く見られるのが、よそよそしい、傲慢といった性質だ。
(55ページより)
新入社員であるかリーダーであるかを問わず、礼儀正しいことにはメリットしかなく、その反対はデメリットだらけという点は確かでしょう。
あなたの礼儀正しさはどれくらい?
礼儀の重要性が理解できたところで、自分の礼儀をチェックしてみましょう。
以下は、本書にあるチェックリスト(全32項目で「絶対にない」~「いつもこうだ」の5段階評価)の一部です。
他人を、また他人の努力を過小評価する
他人と関わらず、何でも自分1人だけで進めようとする
他人の話を途中で遮る
噂話を広める
スマートフォンの画面ばかり見て、目の前にいる人を見ない
会議中にメールをチェックする、あるいはメールを書く
いかがでしょうか? 「これも無礼にあたるのか」と驚いた方もいるかもしれません。
ですが、盲点はこれだけではありません。相手が話から受ける印象の38%は、声や話し方で決まってしまうという調査結果があるのです。
また、善意で言ったつもりでも、相手はそうとは受け取らないリスクもあります。
まずは「3つの原則」を守ることから
「なんだか、礼儀を身につけるって難しそう」と思い始めているかもしれませんね。
しかし、本書では「正しく実践できれば最高の成果が出る」とプッシュされている、礼節ある人が守る「3つの原則」が提示されています。まずは、これらを心がけましょう。
原則1:笑顔を絶やさない
原則2:相手を尊重する
原則3:人の話に耳を傾ける
「拍子抜けするほど簡単じゃないか」と思いましたか? でも、今日は職場で何回笑顔になったでしょうか?
ポラスさんは、「おそらく読者のほとんどは自分で思っているほど日常生活で微笑んでいない。これは断言できる」と述べています。
まずは、この3原則をしっかり励行することからスタートしましょう。
ワンランク上の礼節を身につけるには?
上の3原則が守れるようになったところで、ポラスさんが提示するのは、「ワンランク上の礼節を身につけるための5つの心得」です。
心得1:与える人になる
心得2:成果を共有する
心得3:褒め上手な人になる
心得4:フィードバック上手になる
心得5:意識を共有する
たとえば、1つめの「与える人になる」。ポラスさんの調査によると、これに関して次のことが判明しています。
高い業績を上げている社員は、平均以下の業績の社員に比べて、2倍以上のリソースを同僚に分け与えているとうことだ。
リソースを分け与えると、当然、同僚は気を良くしてくれるし、愛想よく応対してくれるだろう。そしてそれは生産性の向上にも役立つ。
(159ページより)
「リソース」とありますが、これには「情報的リソース」(専門的な知識や技術)「社会的リソース」(何かを入手しやすい立場にいるなど)「個人的リソース」(個人の有する時間・エネルギー)の3つに大別できるそうです。
ここで、与える際に注意したいのは、個人的リソース。
一度分け与えてしまえば、もらった人は長くそれを活用できる情報的・社会的リソースと違って、与えることが自分の持ち分の減少に直結するのが、個人的リソースです。
個人的リソースの提供(例:30分のミーティングを要請され、承諾する)には「慎重に対応しなくてはいけない」と説き、他のリソースで代えられないか吟味するようアドバイスされています。
職場の無礼な人にはこう対処する
ところで、自分は礼節さを心がけているのに、部署内に無礼をふりまく人物がいたらどうしたらよいのでしょうか?
自分が無礼な人の標的になったときの第一の鉄則として、「どういう時でも決して我を忘れてはいけない」とポラスさんは記しています。
自分も無礼にやり返して溜飲を下げるのは、相手と同じレベルまで自分を落とすことになるからです。
まず、考慮すべきは相手との話し合いの場を持つこと。
「その人が無礼な態度を取ったのははじめてか」など、3つの問いにすべて「イエス」と答えられるようだったら、タイミングと場所を考えた上で、話し合いに臨みます(その要領については、本書で詳しく説明があります)。
もし、3つの問いに1つでも「ノー」があれば、話し合う代わりに、今後相手と接触する際は「会話を手短にする。相手にとって有用と思えることだけを話す。友好的な態度を保つ。そして、常に毅然とする」など、いくつかのポイントをおさえたコミュニケーションをすることに徹します。
また、「自分自身がエネルギーに満ち、生き生きと活動していて、しかも日々成長していれば」、受けた無礼によるダメージはミニマムに抑えられるとも記されています。
そこまで自信に満ちていなくとも、「この状況から学べることはないか」「自分は悪くない」と考えるのも有効。
そして、「無礼な態度を取られた場面を何度も思い返すのをやめる」といった戒めについても触れられています。退職を思い詰める前に、できることはたくさんあるわけです。
『Think CIVILITY 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』に書かれていることは、上記にとどまりません。
無礼につながりうる「無意識の偏見」の取り除き方、無礼な人を採用しないためのテクニック、チーム単位での礼節の高め方など、組織に礼節を浸透・定着させるのに必要とするあらゆることが解説されています。
より礼節ある人を志すなら、読んでおくべき1冊と言えるでしょう。
Image: ASDF_MEDIA, Antonio Guillem, Pressmaster/Shutterstock.com
Source: 東洋経済新報社