ロヒンギャ難民100万人の衝撃…中坪央暁著 めこん

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ロヒンギャ難民100万人の衝撃

『ロヒンギャ難民100万人の衝撃』

著者
中坪央暁 [著]
出版社
めこん
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784839603175
発売日
2019/09/02
価格
4,400円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ロヒンギャ難民100万人の衝撃…中坪央暁著 めこん

[レビュアー] 篠田英朗(国際政治学者・東京外国語大教授)

 現代世界で最大の人道危機の一つであるロヒンギャ問題に、ジャーナリストのNGO職員が取り組んだ。500頁(ページ)を超える大著は、さながらロヒンギャ問題の辞典のようだ。

 ミャンマーの少数民族とされるロヒンギャの人々は、ミャンマー政府から国民として認められていないため、国籍を持たない。仏教徒が中心のミャンマーにおいて、少数派のイスラム教徒であり、長い間中央政府による迫害の対象になってきた。2017年以降、特に武装した政府系勢力による攻撃を受けて、100万人と言われる数のロヒンギャ難民が隣国であるバングラデシュに流出した。

 本書は、そのロヒンギャの人々の生の声を濃厚に伝える。あまりに激烈で悲惨な体験が次々と描写されていく本書の内容に、ショックを受ける読者もいるかもしれない。しかし他人事ではない。日本も、ミャンマーやバングラデシュへの外交や援助を通じて、関わりを持つ。

 著者はミャンマーにおけるロヒンギャの人々の地位や歴史を説明し、さらにロヒンギャ問題をめぐる国際政治を解説する。そして巨大難民キャンプ内部の様子を、国際人道援助への省察を加えて、描写する。いずれも複雑な事情を持っている問題群だが、本書の記述は丁寧でわかりやすい。何よりも著者の熱意を支えるロヒンギャの人々への慈しみの眼差(まなざ)しが、行間から繰り返し溢(あふ)れ出る。

 著者は、「人道支援とアカデミズム、ジャーナリズムのささやかな融合」を本書で試みたという。現場感覚を基本に据えながら、学術的議論もバランスよく紹介した。そのうえで丹念に取材を積み上げて、当事者の声を最大限に伝えた。その結果、類書のない貴重な労作に仕上がった。

 深刻なアジアの危機であるにもかかわらず、日本でロヒンギャ問題について得られる情報の量は乏しい。著者とともに、出版社の勇気ある貢献に、敬意を表したい。

読売新聞
2019年11月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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