近世貨幣と経済発展…岩橋勝著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

近世貨幣と経済発展

『近世貨幣と経済発展』

著者
岩橋 勝 [著]
出版社
名古屋大学出版会
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784815809652
発売日
2019/10/03
価格
6,930円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

近世貨幣と経済発展…岩橋勝著

[レビュアー] 坂井豊貴(経済学者・慶応大教授)

 通貨は円やドルだけを気にすればよい時代は終わってしまった。いまやビットコインは総額20兆円に及ぶ資産クラスとなり、フェイスブック社は仮想通貨リブラの発行をめざし、中国政府はデジタル通貨の構想を発表した。通貨の秩序は激変の時代を迎えようとしている。

 これまでの常識が通用しなくなるなか、いかにして変化を理解すればよいのか。一つの有効な方法は、参考となる史実をたよりに、いまの理解に努めることだろう。本書は徳川期の貨幣流通を分析するものだが、その手引きとしての価値をも有している。

 近世日本、徳川期には幕府が金・銀・銭貨を発行していた。だがそれだけでは経済発展にともなう貨幣への需要をまかないきれない。とりわけ、庶民が日々の決済に使うためには、少額貨幣が多く必要となる。少額貨幣は原料が高価な金属を材料とはしにくく、各地で藩札が発行された。そこには発行益への期待もともなっている。

 とはいえ、いくらお上が「これはお金だ」と言ったところで、人々はそれを容易(たやす)く受け入れはしない。だから藩札には流通に成功したものも、失敗したものもある。藩札で物資が購入できる産物会所があると、流通が促される。ただし最も肝心なのは、貨幣が必要とされていること、そのものだ。藩札がなかった備中の一部ではその必要性から、近隣地域の紙幣が多量に流入して使用されていた。

 また、地域によっては有力者が発行する私札が、少なからず流通していた。地域の有力者にとって、自身の信用の保持は重要であった。これが過剰発行を自制させ、私札への信用を支えたと著者は見る。現代では、発行総数がプログラムで厳格に定められた私製の仮想通貨が、インフレを嫌う人々から一定の信用を得ている。時代は変われども、通貨が市場経済を駆動すること、信用が要であることは普遍的である。

 ◇いわはし・まさる=1941年生まれ。松山大名誉教授。著書に『近世日本物価史の研究』など。

読売新聞
2019年11月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加