『自画像のゆくえ』
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【聞きたい。】森村泰昌さん 『自画像のゆくえ』
[文] 渋沢和彦
■制作者目線 大胆メッセージ
森村泰昌さん
「編集者から20年ほど前に依頼があったのですが、いざ書くとなると難しくて。原稿を書いていたのは3カ月くらいですね。一気にです。ぼちぼちやっていたらできません」
西洋美術史、日本美術史や映画などをモチーフに何者かにふんした自分自身を写真撮影する自画像手法の作品を制作してきた美術家の森村泰昌さん。本書は、14世紀から20世紀までの自画像の歴史をゴッホ、レンブラント、アンディ・ウォーホルらの有名作品とともに振り返りながら、自画像を通して画家たちが「私」という人間をいかにとらえてきたか考察する。
専門家がさまざまな文献をあさってまとめたものとは違う。たとえば20世紀前半に活躍したメキシコの女性画家、フリーダ・カーロについては〈フリーダは、自分が外からどう見えているかについて終生、注意をおこたらなかった。ベッドで絵を描く様子が写真に撮られるときも、しっかりメイクを決めこんでいる〉などと記す。
「基本的な文献しか読んでいないので勉強不足ですが」と謙遜するが、同じ制作者目線で作品や人物を分析していて興味深い。「研究者と同じでは、私が書く意味はない。自分が物作りをしているので、そのプロセスで発見したことがある。当事者意識ですね。普通の捉え方とは違うでしょう。定説は崩せないけれども、自由な発想で大胆にメッセージとして送ることができたのでは」
約600ページに及ぶ大著では現代の“自画像”にもふれる。アニメやゲームなどのキャラクターになりきったコスプレやプリクラ、スマートフォンによる自撮りなども論じる。
「災害やテロなど明日は何が起こるかわからない。先の読めない時代、若い人にとって、自撮りやコスプレも今だけでも充実して生きたいということの表れなのでしょう。自分を撮ることにためらいがなく、うらやましい」(光文社新書・1500円+税)
渋沢和彦
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【プロフィル】森村泰昌
もりむら・やすまさ 昭和26年、大阪市生まれ。60年、自画像作品を制作してデビュー。国内外で発表を続ける。著書に「踏みはずす美術史」など。