虚々実々の暴き合いに息を飲む迫真のサスペンス長篇

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スワン

『スワン』

著者
呉 勝浩 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041086391
発売日
2019/10/31
価格
1,870円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

虚々実々の暴き合いに息を飲む迫真のサスペンス長篇

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 アメリカで銃乱射事件が起きるたびに、日本は銃所持が規制されていてよかったと思う人は多いだろう。しかし技術の進歩は銃の製造も手軽なものにした。今や日本でも乱射事件が起きないとは限らないのだ。

 本書では、埼玉県の巨大ショッピングモール・湖名川シティガーデン・スワンでふたりの男が大量の手製拳銃を乱射、二一人の死者を出す。犯人は自分らを疎外した者たちに復讐すべく徒党を組んだのだったが、本書で注目すべきは犯人側ではなく、事件に巻き込まれた人々だ。

 物語はまず、群像劇のスタイルで始まる。二〇一八年四月、事件当日の発生一時間前から時間を追って犯行の様子が描かれていく。のっけから緊迫したドキュメンタリータッチが続くが、本篇はその半年後、女子高生・片岡いずみが徳下宗平という弁護士の招きである集会に参加するところから動き出す。

 いずみは犯人と接しながら生き延びたひとり。集会に集まった四人の男女も事件に巻き込まれた人々だった。徳下は地元の物流会社社長の依頼で、自分たちが体験したことを有償で話し合ってほしいと語る。社長の母・吉村菊乃も犠牲者で、彼女が犯人に殺されたのは明らかだったが、その死の周辺には不審な点があったという。いずみをスワンに呼び出したのは同級生の古館小梢で、彼女は事件後、いずみが犯人に次に殺す者を問われ、答えていたと暴露。いずみ自身、未だに批難の渦中にあった。

 犯人はわかっているが、現場で何が起きたのか、今ひとつはっきりしない。四人の男女も各々秘密を抱えているようだし、徳下も何かを隠しているようだ。事件の再現を交えつつ進んでいく、虚々実々の話し合い。極限状況に置かれた人々の本性が暴かれていくありさまはスリリングのひと言で、真相に迫る緊張感は最後まで途切れない。まさに現代版「藪の中」、いやエンタメ的にはそれをも超える迫真のサスペンス長篇だ。

新潮社 週刊新潮
2019年11月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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