49年間、全レースの馬券を買い続ける飄々たる“病”の記録
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
先日の天皇賞は馬券を買いませんでした。アーモンドアイが図抜けて強く、他にも豪華絢爛という名馬揃いで、旨味が薄いと思ったからです。果たしてアーモンドアイの強いこと、アングリ口を開けてテレビを観ていました。しばしして舌打ちしました。記念に160円の単勝を買っときゃよかったと後悔したのです。「あのレースね、持ってるよ」と、酒場の話題にできたのに残念です。
かように年に何日か重賞レースを買ったり買わなかったりするほぼ初心者の私ですが、著者はタイトルが示す通りの筋金入りの馬券買いです。とにかく昭和、平成、令和と、49年間全レースの馬券を買い続けるという猛者中の猛者なのです。
本書には二〇一八年三月四日の弥生賞に始まり、二〇一九年二月二四日の中山記念までの記録と雑感が網羅されています。他に「思い出ほろほろ旅打ち競馬」と銘打ち、福山、益田、荒尾、高知、上山、盛岡といった地方にまで出かけているのです。初心者の私が言うのも僭越ですが、恐るべき高みがあるものだと、感嘆しきりなのです。
しかし、これだけ打ち込んでよく家計が破綻しないものだとの心配も募ります。著者は自分の競馬好きを「持ったが病」と言い切り、「全レース馬券買い」が主な病であり、次に「昼でも飲酒」なのだと続けます。ますます心配になるわけですが、そこをスイスイと乗り切り、還暦を迎えたのです。よくもまあご無事でと二嘆三嘆なのです。
著者は風流人でもあります。レース毎に必ず一句添えているのです。二〇一八年九月九日のセントウルステークスの章ではこうです。「愛おしみ時に憐れみ馬肉食う」 この余裕が破綻しないコツなのではないでしょうか。
さて先日の天皇賞、いわゆる秋天ですが(私もこういう言い方ぐらいは知っているのです)、著者はどう買い、どう思ったのでしょうか。