スヌーピーの父 チャールズ・シュルツ伝…デイヴィッド・マイケリス著 亜紀書房

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スヌーピーの父 チャールズ・シュルツ伝

『スヌーピーの父 チャールズ・シュルツ伝』

著者
デイヴィッド・マイケリス [著]/古屋 美登里 [訳]
出版社
亜紀書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784750516165
発売日
2019/09/28
価格
6,600円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

スヌーピーの父 チャールズ・シュルツ伝…デイヴィッド・マイケリス著 亜紀書房

[レビュアー] 尾崎真理子(読売新聞本社編集委員)

 谷川俊太郎訳『完全版ピーナッツ全集』25巻(河出書房新社)と、この大評伝が出版され、長年の読者としては心穏やかでいられない。

 チャーリー・ブラウンがあれほど夏のキャンプ前に憂鬱(ゆううつ)になったのは、徴兵の記憶ゆえ。スヌーピーが「カワイコちゃん」と恋に落ち、浮かれていたその時期、50歳手前の作者シュルツも同じ状況にあったとは! 極東に住む昭和の中学生には知る由もなかった漫画の真意を、マイケリスの評伝は執拗(しつよう)な取材と膨大な資料を分析して解き明かす。酷な内容も含むが、不世出の漫画家を論じるには欠かせぬ労作だ。

 アメリカ中西部ミネソタの理髪店のひとり息子に生まれたシュルツは、飛び級するほどの能力が孤立を招き、通信教育で作画を独習。1950年、正方形の4コマからスタートした『ピーナッツ』には、最後まで旧友への意趣返しが通底していたとマイケリスはみる。60年代後半、ルーシーに似た最初の妻とカリフォルニアの豪邸に落ち着くと、「幸福からユーモアは生まれない」と考えるようになり、社交嫌い、旅行嫌いは激しさを増したという。

 テレビ時代の新聞漫画に冒険は不要となり、単調なのに不安な日常を受けとめる哲学、心理学的洞察が求められた。それを成し得たのは結局、自分自身すら否定する孤高の知性を養い、戦争も環境破壊も、裏腹の柔らかな線画で表現したシュルツだけだった。自主独立のスヌーピーは米軍の徽章(きしょう)、フォード車の宣伝材になってもなお、東部と西海岸の学生に支持され、連載の掲載媒体は2600に拡大した。

 それにしても『ピーナッツ』の草野球チームの子供らは、現代社会が打ち放つ複雑な球を50年、なんと健気(けなげ)に、気ままに拾い続けてくれたことか。平穏な日常は、20世紀後半の新聞漫画でこそ持続可能だった。2000年に閉じたシュルツの実人生は、まるごと漫画の中にあった。古屋美登里訳。

読売新聞
2019年11月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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