昭和も遠くなりにけり…矢野誠一著 白水社

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昭和も遠くなりにけり

『昭和も遠くなりにけり』

著者
矢野 誠一 [著]
出版社
白水社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784560097175
発売日
2019/08/23
価格
2,750円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

昭和も遠くなりにけり…矢野誠一著 白水社

[レビュアー] 戌井昭人(作家)

 本書は、私の憧れの人がたくさんでてくる。けれどもほとんどの方がもうこの世にいない。小沢昭一、加藤武、永六輔。著者の矢野誠一さんは、毎月彼らと集まって句会をしていた。ときには吟行をおこない、海外にも行った。そのことが「東京やなぎ句会のこと いろいろ」の章で綴(つづ)られている。メンバーは他にも江國滋、入船亭扇橋、神吉拓郎など、最大十二人いたが、いま残るのは柳家小三治さんと著者だけになった。もちろん、このような方々が集まっているのだから、句会といっても真面目にはならない。いや、ふざけるために集まっている感じだ。吟行は必ず珍道中になり、集まっても俳句そっちのけで噂(うわさ)話に興じる。矢野さんは「我が句会の席はちょっと名状しがたい雰囲気で」と書いている。この句会の名状しがたい噂を聞いたことがある。名状しがたいので、ここには記せないが、物凄(すご)く楽しそうだった。

 無駄といっていいのか馬鹿といっていいのかわからないけれど、他人からすれば理解できないことを追求している人々がいる。そのような酔狂な方々が集まって、遊んでいたら、そのまま続いてしまった感じだ。しかし、悲しいけれど終わりは必ずやってくる。

 昭和は、どんどん遠のいていくけれど、時代は流れるのだから仕方がないのだ。矢野さんは変にセンチメンタルにならず、気持ちの良い過去を教えてくれる。

 最後の章に載っていた「妻のいない日日」は、妻が亡くなってからの日常が綴られている。読んでいたら、ふいに涙がこぼれてしまった。これから先、終わりがあるのはわかっているが、それまで生活は続いていく。しかし悲嘆しなくて良い。平成も終わり、昭和はさらに遠くなったけれど、あえて令和を近づけるためにあくせくする必要はない。とにかく、終わりの日がくるまで、自分の好きなことを追求していれば良いということを教えられた。

読売新聞
2019年11月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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