グレタ たったひとりのストライキ マレーナ&ベアタ・エルンマン、グレタ&スヴァンテ・トゥーンベリ著

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グレタ たったひとりのストライキ

『グレタ たったひとりのストライキ』

著者
マレーナ・エルンマン [著]/グレタ・トゥーンベリ [著]/羽根由 [訳]
出版社
海と月社
ISBN
9784903212685
発売日
2019/09/30
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

グレタ たったひとりのストライキ マレーナ&ベアタ・エルンマン、グレタ&スヴァンテ・トゥーンベリ著

[レビュアー] 秋山千佳(ジャーナリスト)

◆試練を越えて、独学で

 九月の国連気候行動サミットでのスピーチで、日本でも知られるようになった十六歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリさん。彼女の言葉を読みたくて本書を手にとったなら、きっと拍子抜けするだろう。なぜなら本書は主にグレタさんの母によって書かれており、本人の肉声であるスピーチ収録は全体の五分の一ほどだからだ。この本の意義はむしろ、環境活動家としてのグレタさんが誕生した経緯を知ることで、一貫した主張への理解が進むところにある。

 グレタさんは十一歳の時、海に浮遊する大量のゴミについての映画を観(み)た衝撃から、日々泣き続け、無気力に。元から小柄な体は二カ月で十キロも減り、餓死の兆候まで表れた。検査の結果、アスペルガー症候群、高機能自閉症、強迫性障害と診断される。

 学校では他の生徒と同じように行動するよう指導され、いじめにも遭う。福祉国家と名高いスウェーデンだが、それでも社会の側に違いを受け入れないという障害があるのだと、ADHDと診断された妹のベアタさんを含めた一家の試練から浮かび上がる。

 そんな状況下でも気候危機について独学を続けたグレタさんは、まず、世界的に活躍してきたオペラ歌手の母と俳優の父を感化する。そして二〇一八年八月、国会議事堂前に座り込む学校ストライキを自発的に始める。一人で始めたストライキは、ソーシャルメディア効果もあって瞬く間に世界中に広まった。称賛と嘲笑の対象となったが、「私はただのメッセンジャー」「科学のもとに集結して」と姿勢はぶれない。

 グレタさんは気候危機を「未来を修復できない全面核戦争みたいなもの」と言う。トランプ米政権がパリ協定離脱を国連に通告したが、彼女は以前から「トランプは少なくとも正直よね」と指摘していた。「私たちだって同じことをしてるよ」と。耳が痛いが、彼女の母の表現を借りると、便利な生活を変えずに気候の現実を直視しない私たちは一様に“裸の王様”であり、グレタさんは“それを指摘する子ども”なのだ。

(羽根由ゆかり訳、海と月社 ・ 1760円)

<グレタ> スウェーデンの環境活動家。母マレーナと父スヴァンテの長女として2003年誕生。ベアタは妹。

◆もう1冊 

小西雅子著『地球温暖化は解決できるのか-パリ協定から未来へ!』(岩波ジュニア新書)

中日新聞 東京新聞
2019年11月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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