<東北の本棚>被災地の人間模様描く

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希望の地図2018

『希望の地図2018』

著者
重松清 [著]
出版社
幻冬舎
ISBN
9784344428836
発売日
2019/08/06
価格
660円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

<東北の本棚>被災地の人間模様描く

[レビュアー] 河北新報

 東日本大震災の発生以降、岩手、宮城、福島の被災3県に通い続ける直木賞作家のルポ。震災から7年が過ぎた2018年に出会った東北の人々に焦点を当てる。
 冒頭のシーンは18年3月8日、JR仙台駅。あの日から7回目の3月11日が迫る中、筆者は売店で酔仙酒造(陸前高田市)の「雪っこ」を買う。被災地の取材者なのに、震災前の東北を知らない自らに負い目を感じていて、津波で酒蔵が全壊した酒造会社の人気商品を購入することで気合を入れる儀式なのだという。
 フィクションの書き手が被災地の取材で何を得るのかは「分からない」と書く。それでも、被災地の風景と向き合い、犠牲者や残された被災者らの命の話を聞きたくて、儀式を行ってまで人々に会いに行く。
 宮城県南三陸町で行方不明となった消防署員の奥さんが事情を知らずに差し入れに来て、責任者が意を決して打ち明けたこと。東京電力福島第1原発事故の影響に苦しむ南相馬市小高区の高齢者施設を支えようと都会から就労を志願してくれた人たちに、施設の間近に積み上げられた除染廃棄物入りの大型土のう(フレコンバッグ)を見せ、よく考えさせなければならない運営者がいること。
 津波と放射性物質に打ちのめされてきた被災者の経験談が多数ちりばめられており、さまざまな人間模様は、さながら被災者群像劇のように読める。その証言数も膨大で、人気作家の単なる漫遊記とは一線を画す。
 震災発生時に48歳だった筆者。原発事故が突き付ける未曽有の課題を考えれば、「『現役』の残り時間を目いっぱい使っても、そのすべてを見届けることはできないだろう」とする。ただ、「ラストシーンを持たない長い長いお話」の途中経過は報告できると考えたという。
 被災3県のほか、熊本地震や西日本豪雨、阪神大震災の被災地も登場する。
 幻冬舎03(5411)6222=660円。

河北新報
2019年11月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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