パンチパーマでヒップホップの世界に入ったラッパー、危険な自伝

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コンプライアンスを完全に逸脱? やばいラッパーの危険な自伝

[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)

 TBSテレビ『リンカーン』で中川家・剛にラップを教えたことや、大相撲の若麒麟=プロレスラーの鈴川真一が大麻で捕まったとき、一緒に捕まったことで知られるラッパーD.O(ディーオー)の自伝は、いまのコンプライアンス基準から完全に逸脱した一冊。自分が出る『リンカーン』のオンエアが「ちょうどバレットと呼ばれる二五グラムずつの繭玉をバラしているときだった」とか、執筆が二度目の逮捕で収監される直前だったからなのか、専門用語を織り交ぜつつ踏み込んだ話をしているからやばい。

 なにしろ小学校低学年でリーゼントパーマをあて、中1で大麻に目覚めるとハスラー(=売人)になり、やがて抗争で拳銃を手にするまでになるんだが、「ヒップホップがあれば、暴走族にも極道にもなる必要はない」と気付くのは、まだいい。そのとき「チーム(暴走族)には属さない。極道にもならない。かといって、カタギでもない。そんな中途半端はダメだ」「ヤクザやるか、ラップで音楽家になんのか―。今ここで選べよ」と極道に迫られ、「ウチの組で世話になってる兄貴の幼馴染みがラップをやってるんだ。兄貴にお前の話をしたら、興味持ってんだわ。お前はまず、そのラッパーのボディガードになれ」と命じられて、パンチパーマでヒップホップの世界に入ったという時点で本物すぎる!

 薬物で逮捕され、「留置場を出た直後はアウトローたちから次々と恐喝をかけられた。『お前のせいで俺たちのシノギは迷惑を被ったから、その責任をとれ、金を払え』って」「そういう恐喝がエスカレートして殺されそうになったこともあるし、半グレからも的にかけられた。実際、クラブでライブしていたら襲撃されて、何回か袋叩きにされた。諸々の誤解を解くには二年くらいかかった」ことも含めてアウトロー稼業の過酷さにもキッチリ踏み込んでいて、ここまで危険なラッパー本は初じゃないかと思ったのである。

新潮社 週刊新潮
2019年11月21日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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