続々刊行が始まった古典ミステリの「教科書」的文庫3選

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  • 世界推理短編傑作集1
  • 短編ミステリの二百年1
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続々刊行が始まった古典ミステリの“教科書”

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 古典ミステリ短篇を知るのに重宝する選集といえば、江戸川乱歩編『世界推理短編傑作集』全五巻(丸谷才一ほか訳、創元推理文庫)。ロングセラー『世界短編傑作集』を改題・改訂したもので、一八四四年から一九五一年の間に発表された推理短篇の名作を収録。たとえば第一巻はエドガー・アラン・ポオ「盗まれた手紙」、アントン・チェーホフ「安全マッチ」、アーサー・コナン・ドイル「赤毛組合」、ジャック・フットレル「十三号独房の問題」などの有名短篇が並ぶ。巻末には戸川安宣氏による「短編推理小説の流れ」も五巻にわたって掲載され、推理小説を体系的に学ぶ絶好の教科書だ。

 このたび、新たにテキストとして重宝されるだろう傑作選の刊行が始まった。小森収編の『短編ミステリの二百年』全六巻(猪俣美江子ほか訳)である。乱歩の傑作集には収録されなかった、十九世紀から二十一世紀までの作品を厳選。第一巻では、サーガの巨匠ウィリアム・フォークナー、英国の情報工作員の経歴がありスパイが登場する『アシェンデン』という著作もあるサマセット・モーム、短篇の名手サキのほか、人気ミステリを多数生み出したコーネル・ウールリッチらも。超有名作から掌篇までテイストはさまざまで、これがどれも面白い! 巻末には編者による評論「短編ミステリの二百年」が掲載され、第一巻に収録された序章と第一章だけで一五〇ページ超。各短篇を選んだ理由や推理小説の変遷、他のお薦めの短篇の紹介など充実の内容で、続刊にも期待大。

 創元推理文庫からは他にも、古典ミステリ好きにはたまらない一冊の完全版が刊行されたばかり。福永武彦、中村真一郎、丸谷才一がそれぞれ探偵小説について語った文章を集めた『深夜の散歩 ミステリの愉しみ』である。さまざまな作品や作家を引き合いに出し、時には辛辣にバッサリ斬り、世相や出版事情なども絡めて縦横無尽に語る。探偵小説が大好物であることが滲むその筆致に、既読の古典も再読したくなってくる一冊だ。

新潮社 週刊新潮
2019年11月21日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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