ヒモ男が日本アカデミー賞受賞の脚本家になるまで20年以上支え続けた妻の本音

対談・鼎談

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それでも俺は、妻としたい

『それでも俺は、妻としたい』

著者
足立 紳 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103529118
発売日
2019/10/30
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

爆笑鼎談 愛ある暮らし、ダメ夫の誠実 『それでも俺は、妻としたい』刊行記念企画

[文] 新潮社

妻の「最推し」は夫だった


足立晃子さん

野木 足立ワールドって、『百円の恋』もそうだけど、全部自分の経験から出来てますよね。

晃子 「結局半径五メートルのネタじゃん」ってよく言われます。それが嫌で嫌で。

野木 いや、それはそれですごいことですよ。これだけ開けっぴろげにできるっていうのはある種の才能だし、それがただの露悪じゃなく読んで面白いというのはさらなる才能だと思う。でも晃子さんがいなかったら全てが生まれてないので、そこは一生感謝しないと。

足立 感謝はものすごいしてる。

野木 ほんと? この鼎談のためにメールのやりとりしてたら、「『俺が面白いものを書けないのはお前のせいだ』って奥さんに言っちゃった」って書いてたじゃん。本当に意味がわからなかった。

晃子 それ、しょっちゅう言うの。信じられないでしょう?この人、福田雄一さん(映画監督)みたいなポジションになりたいの。楽しそうに仕事やってて。奥さんがすごく面白い方みたいで、「俺が福田監督になれないのはお前に才能がないからだ」って。あとは、作家の樋口毅宏さん。奥さんが弁護士で、「弁護士になってくれたら、俺、家のことは全部やってやるよ」なんて。

足立 そんな、そんな言い方はしないよ。妻が弁護士や宇宙飛行士ならネタになるのにって。

晃子 でも言われてみると私も確かに上手く映画分析できないし、弁護士にはなれないし、脚本も書けないし……って思っちゃう。

野木 それ、DV被害者の思考じゃない? 完全に洗脳だ。

晃子 映画を観たら毎回ケンカするんですよ。観終わって感想なんてすぐに言えないでしょ? でもこの人、ペラペラよくしゃべるんです。甲高い声で。「お前はボキャブラリーが貧困だ」とか言いながら。

足立 そんなこと絶対に言ってない。殴られる。ボキャブラリーが貧困でも、感想は言えるじゃん。

野木 問題は映画の感想じゃない。問題は、ここまでやってもらってるのに「お前が面白くないから俺が伸びない」っていう発言だよ。

足立 それは俺があれこれ言われるからだよ。もっとテレビの仕事しろとかネット配信やれとかギャンギャン言ってくるから。でも俺、五年前に比べたらだいぶマシになったのに……。

野木 それ、自分で言われるとむかつくんだよね。こっちが勝手に「五年前よりはよくなった」と思う分にはいいんだけど、堂々と言われるとちょっとイラっとくる。

晃子 そう、そう! さすが野木さん、私の言いたいことを全部言ってくれてる。うれしい。

野木 足立さん、汗かいてる? 大丈夫?

足立 大丈夫(汗)。

晃子 今日、鼎談が始まる前に「俺はただニコニコしてるから」って言ってたの。こうやってあれこれ言われて責められてタジタジするのも、すべて計算ずくなんですよ。

足立 だって、そうなるのが一番いいと思ってるんだもん。

晃子 本当にこの人は社会に向いてないんですよ。社会不適合者。なんのバイトしても結局店長や上司に怒られまくってる、家でも私に怒られてるし。

野木 物書きしかできないんじゃない?

晃子 おっしゃるとおり。物書きって言ってもハンパのハンパのハンパだけど。

足立 映画監督だって、ほぼ何もしなくていいからできるんだよね。ちゃんと優秀なスタッフがすべてやってくれるから。

野木 それは違う!(笑) 世の中の監督、超仕事してるよ。だけどみんなが「やってあげなきゃ」って思う、それも含めて才能なんだろうね。

晃子 そういう人を選ぶのが上手いの。私が死んでも、自分がのびのび生きていける、稼いでくれる女を誰か探し出すと思うんだよね。ヤドカリみたいに。

野木 だから死んじゃダメだよ、長生きして。せっかく売れてきたんだから美味しいところを頂かないと。

足立 いやー、映画なんて全然儲からないよ。それこそカンヌとか行っちゃえば別だけど。

晃子 カンヌねー。私、なんだかいつか行けると思うんです。

野木 ……なんでそこまで信じられるの?

晃子 んーー。ばかなのかも。

足立 ばかって言ったらアレだけど。

野木 それは愛と言い換えられるかもしれない。

晃子 そうか。

野木 足立さんのことに関してはばかになれるってことでしょ。今どきの言葉で「推し」ってあるけど、晃子さんの最推しが足立紳だってことなんだね、つまり。

撮影:青木登

新潮社 小説新潮
2019年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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