君が異端だった頃…島田雅彦著 集英社

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君が異端だった頃

『君が異端だった頃』

著者
島田 雅彦 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784087711905
発売日
2019/08/05
価格
2,035円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

君が異端だった頃…島田雅彦著 集英社

[レビュアー] 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

 島田雅彦は、異端から正統になったのか?

 確かに、デビューから6回も落選した芥川賞選考委員を既に長く務めている。テレビ出演も多い。大学教授でもある。もはや異端ではないかのように見える。

 けれども、幼少期から30代初めまでの遍歴を「全て実話」の二人称私小説としてつづる本作を読むと、タイトルの意味が沁(し)みる。

 3月生まれなので同級生に運動も勉強も劣っていた、という自意識は小さな異端と呼べる。中学生の時に「島田君って変わってるね」を褒め言葉と受け取るのは、ありふれているものの変人への第一歩と言える。また、日本ばかりかロシアや米国でも女性にモテるのは、普通の日本男児ではない。うらやましい。

 その外れぶりは、何よりも彼の文学にある。処女作からして、「左翼」をわざわざカタカナ表記にした「優しいサヨクのための嬉遊(きゆう)曲」であり、そのパロディーへの入れ込み具合は徹底している。初めての長編小説もオーソドックスな文学観をもてあそぶ仕掛けに満ちている。

 『死霊』の埴谷雄高から受け取った「伝統を保守する正統なんか目指さず、異端のままでいよ」との姿勢通り、なるほど島田雅彦は文壇のはみ出し者として歩んできたかに読める。

 裏を返せば、それは、文壇があったからだ。本書は「文壇があった頃」と言い換えられる。文壇という正統な場があり、私小説はその主流の一つでもあった。本書は主人公を「君」として作者から呼びかけ、いわゆる私小説から距離を取る。この点でも著者らしさを見せつける。

 異端が正統になったのではない。島田を異端と断じる正統がなくなった。中上健次が新宿で飲み歩いていた頃まではあったのか。いつなぜいかに消えたのか。その事情に思いをはせ、今と当時の文学を比べるために、島田の初期作品だけでなく、昭和文学への再入門として、令和の今、何度でも読み返したい。

読売新聞
2019年11月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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