祇園の祇園祭…澤木政輝著 平凡社

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祇園の祇園祭

『祇園の祇園祭』

著者
澤木 政輝 [著]
出版社
平凡社
ジャンル
社会科学/民族・風習
ISBN
9784582838060
発売日
2019/09/17
価格
2,640円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

祇園の祇園祭…澤木政輝著 平凡社

[レビュアー] 通崎睦美(木琴奏者)

 毎年7月17日、金銀丹青に彩られた鳳凰(ほうおう)の冠をいただき金襴(きんらん)の豪華な装束を身につけた稚児を乗せた長刀鉾(なぎなたほこ)を先頭に、「動く美術館」といわれる23基の山鉾が京の町を巡行する。多くの人は、ユネスコ無形文化遺産に登録されるこの山鉾巡行こそが、祇園祭だと思っているのではないだろうか。7月になれば、各鉾町から祇園囃子(ばやし)の練習の音が聞こえる下京の町中に生まれ育った私も、そうでないと知ったのは、20代になってからだ。

 祇園祭は八坂神社の祭礼。869年、国内に疫病が流行した際、神泉苑に当時の国の数66本の矛を立て神輿(みこし)を送り、国家の安寧と厄払いを願ったことに由来する。祭りの中核はあくまでも神輿の渡御(とぎょ)で、山鉾巡行はこれに伴う風流として生まれたものだ。

 17日の神幸祭(しんこうさい)で八坂神社から渡御した3基の神輿は四条寺町の御旅所(おたびしょ)に鎮座し、24日の還幸祭(かんこうさい)で神社に還(かえ)る。本書で紹介される宮本組は、八坂神社、すなわち、お「宮」の「本」の祇園に住まう男たちを中心とした集まりで、ご神宝(しんぽう)と共に行列を先導する。令和初の祇園祭では、3基の神輿それぞれに神宝行列が供奉する本来の姿を取り戻した。

 この両行事前後の厳かな神事、またそれを所管する宮本組の詳しい役割は、ほとんど知られてこなかった。

 著者は、明治から5代続いた祇園東の老舗お茶屋に生まれた生粋の祇園の人。中学3年生の時に「そろそろお兄ちゃん、お祭出はらへんか」と誘われ、宮本組の一員となった。

 本書の白眉は、体験を基にしたルポルタージュ「宮本組の一か月」。1150年にわたる祇園祭の起源と変遷に関する歴史資料を子細に読み解き、学術的な要素を押さえたルポは、この著者でしか書き得なかったものだろう。祇園にルーツを持つ宮本組の面々は、誰に強いられる訳でもなく、祇園祭に奉仕する使命感を抱いている。本書も、そんな心意気の現れなのかもしれない。

 

 <注>タイトルの「祇園の祇園祭」の「祗」の「しめすへん」は、正式には「示」。

読売新聞
2019年11月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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