<東北の本棚>地球救う森里海の循環

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

水の恵みと生命文明

『水の恵みと生命文明』

著者
安田, 喜憲, 1946-
出版社
第三文明社
ISBN
9784476033724
価格
2,970円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>地球救う森里海の循環

[レビュアー] 河北新報

 欧米型の人間中心主義の物質エネルギー文明は危機に瀕(ひん)している。地球環境を守るのはアジア型の稲作漁撈(ぎょろう)文明、森里海の「水の循環」を維持する再生システムにある、と説く。著者は、わが国で初めて環境考古学を提唱した地理学者だ。
 欧州の文明に憧れた若い学者時代、地中海沿岸の国々を訪ねた。ギリシャ文明が発達した時代の2500年以上前、山々は鬱蒼(うっそう)とした森に覆われていた。ところが、行ってみれば現代のギリシャは、はげ山ばかり。船材に、金属を溶かす燃料にと、木を切り尽くした。「森は滅び、ギリシャ文明は崩壊した」と著者は指摘する。英国や米国も同様だ。木を伐採して畑作牧畜農業を発展させ、産業革命を推進した。富の奪い合いは、数知れない戦争を起こした。
 花粉分析の手法で縄文遺跡を発掘、調査していた著者。師の梅原猛氏(国際日本文化センター初代所長)に、次に与えられたテーマは「中国・長江文明」だった。研究を進めると1万年以上から稲作が始まり、約6000年前に都市文明が誕生したことが分かった。人々は太陽を崇拝した。季節に応じて種籾(たねもみ)をいつまくか、いつ田植えをするかを判断した。上流から下流に向かって流れる水を、上手に入れ替えた。水源林を保全、海洋資源に至るまで巧みに利用した。それがアジア型の共生文明だ。
 欧米型文明は明治維新後、大量に日本に輸入された。それは学問から暮らしまで隅々に及んだ。「伝統を忘れた日本人。欧米型の拝金主義のなれの果てが、原発事故か」と警告する。
 著者は1946年三重県生まれ、名取市在住。国際日本文化センター名誉教授で著書は本書で102点となる。過去40年間の講演録から、抽出してまとめた。話題は宗教、民俗、ユートピア論に及ぶ。自身の思想遍歴であり、「学者人生の集大成の書」と後書きで回顧する。
 第三文明社03(5269)7144=2970円。

河北新報
2019年11月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク