候補作公表の再開を期待したい毎日出版文化賞

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夏物語

『夏物語』

著者
川上 未映子 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163910543
発売日
2019/07/11
価格
1,980円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

候補作公表の再開を期待したい毎日出版文化賞

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 毎日新聞社が主催(特別協力=大日本印刷)する、優秀な出版物などを対象とした賞が「毎日出版文化賞」です。創設されたのは一九四七年。現在は、文学・芸術、人文・社会、自然科学、企画の本賞四部門に、特別賞を加えた五ジャンルから受賞作を出しています。

 出版社による自薦出版物、もしくは毎日新聞社が依頼した有識者から推薦された出版物が選考対象となり、先頃発表された第七十三回受賞作は次の通り。文学・芸術部門=川上未映子『夏物語』(文藝春秋)、人文・社会部門=関根清三『内村鑑三』(筑摩書房)、自然科学部門=該当なし、企画部門=「シリーズ ケアをひらく」(医学書院)、特別賞=ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)、池内了『科学者は、なぜ軍事研究に手を染めてはいけないか』(みすず書房)。

 第五十四回まではしていた候補作の公表をやめてしまったのは残念。毎日出版文化賞にかぎらず、昨今、全般的に候補作を隠す傾向にあるのは、「落選を明らかにするのは、すでに名をなした作家に失礼だから」であるらしく、そりゃごもっともとは思いつつも、野次馬としては正直つまんない。芥川賞や直木賞が“興行”として盛り上がるのは、やっぱり候補作を見て受賞作を予想したり、結果に一喜一憂できるからだと思うのですが。

 あと、こういうジャンルが多岐にわたっている賞で気になるのが選考委員のメンツで、鷲田清一、角田光代、佐伯一麦、瀧浪貞子、武田徹、中西寛、西垣通、沼野充義、小松浩の各氏。出版社自薦となると候補作はずいぶん多いと思われますが、賞の事務局によれば、このお歴々はそのすべてを読んでいるとのこと。まことに、ご苦労様です。

 受賞作の中で、わたしが読んでいるのは、川上未映子の『夏物語』。芥川賞受賞作『乳と卵』とつながりのある作品で、女性が子供を産むことをめぐって、さまざまな意見が響き合う、出産の倫理に関して真摯でシリアスな物語です。その一方で、大阪弁がかもすユーモラスな声も大きな魅力。この受賞を機に、大勢の読者に届いてほしい一作です。

新潮社 週刊新潮
2019年11月28日初霜月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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