『まほり』
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『図書館の魔女』の著者が描く民俗学ミステリ
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
「図書館の魔女」シリーズで大人気を得た謎の多い著者、高田大介が新刊を出した。それもこのシリーズではなく書き下ろしの民俗学ミステリだ。専門の言語学の知識を縦に横に張り巡らし、思いもよらぬ結末を導く力作だ。
中学一年の長谷川淳は妹の喘息の療養のため都会から山深い集落にある父方の曽祖母の家に移住してきた一家の長男だ。山の遊びではお味噌扱いになるのが悔しく、一人で渓流釣りに出かけた折、ひとりの奇妙な少女に出会う。赤い着物を着て尋常な様子でないその少女は村人に拉致されるように連れ去られた。その少女に再び出会ったのは村の祭りだった。お神楽(かぐら)で篳篥(ひちりき)を吹いている少女と目が合った瞬間、淳は心を奪われ彼女のことを調べてみようと決意した。
並行して語られるのは社会学を専攻している大学生・勝山裕だ。彼は飲み会で不思議な体験談を聞く。ある同級生の友人の故郷の町ではところどころに四ツ割にした半紙に二重丸が書かれたものが軒先や町の掲示板に何気なく張り出されることがあるという。好奇心を抱いた子供たちがその二重丸を辿っていくと、山の奥深くにある祠(ほこら)に着いた。なんと中に誰かがいた! その町は裕の故郷近くでもあることから、自ら調査に乗り出していく。彼にはいつか突き止めたい出生の謎もあったのだ。
この二人がやがて出会い、二重丸の意味と少女の正体を、神社の由緒や歴史学的な見地を総合して暴いていくのだが、推理の経緯が極めて精緻なのだ。閉鎖された集落に残された因習の謎が解明されたとき、犠牲になった少女たちの無念が晴らされる。「まほり」という言葉の意味を知ったとき、背筋に冷たいものが走った。