[本の森 ホラー・ミステリ]『犯人選挙』深水黎一郎/『カエルの小指』道尾秀介/『そして誰も死ななかった』白井智之
レビュー
書籍情報:openBD
[本の森 ホラー・ミステリ]『犯人選挙』深水黎一郎/『カエルの小指』道尾秀介/『そして誰も死ななかった』白井智之
[レビュアー] 村上貴史(書評家)
深水黎一郎『犯人選挙』(講談社)については、先行して電子書籍で発表された「問題篇」を八月号の本欄で紹介した。問題篇を読んだ読者が、七つの選択肢からこれぞと思うものに投票して犯人を決め、それをふまえて著者が小説を完成させるという趣向だった。その完成版を読んでみると……なんと深水黎一郎、七つの選択肢の全てについて、それが成立する解決篇を書いていたのだ。それだけでも十分に多重解決ミステリとして魅力的だが、著者はその並べ方に工夫を凝らし、驚愕がクレシェンドするよう仕掛けているのである。しかも叙述トリックを排除しつつ、二重密室の解明も七通りだ。巧者の渾身の作を読むのは、かくも心地よい。
続いても巧者の作を。道尾秀介『カエルの小指』(講談社)である。『カラスの親指』の続篇だが、単品でも十分愉しめるよう仕上がっている。
武沢竹夫。元詐欺師。現在はその話術を実演販売という健全な仕事で活かして暮らしていた。ある日、彼の実演が山場を迎え、いざ客たちに財布の口を開かせようとしたときのこと。一人の中学生が口を挟んできた。口上のリズムは崩れ、その日の商売は散々な結果に終わってしまった。それだけではない。武沢は再び詐欺の世界に回帰することになってしまうのである。その中学生のせいで……。
騙し合いの物語である。詐欺によって生活を破壊された者が、加害者を騙し返して復讐する。大枠はそんな物語なのだが、そこは道尾秀介のこと、大小さまざまなひねりが加えられている。誰が誰をどう騙しているのか。めくるめく展開が実に愉しい。しかもそこに、家族や仲間といった糸が、心強いものも心を削るものも含め織り込まれていて、騙し合いが実に味わい深いものとなっている。ホントにいい小説だ。
最後も巧者――といっていいのかな。白井智之の『そして誰も死ななかった』(角川書店)である。
五人の推理作家が覆面作家の天城に招かれ、絶海の孤島を訪れた。だが、天城の館に主人はおらず、泥人形が並べられているだけであった。往路のトラブルのせいでこの孤島に封じ込められることになった推理作家に、次々と奇怪な死が訪れる……。
化け物じみたミステリだ。推理はミルフィーユのごとく何層にも重ねられ、そのミルフィーユはザクザクとナイフで切断され、ムシャムシャと咀嚼され、そしてまた新たな推理がひり出される。滑稽なほど残酷な一方でどこかしら純で、同時に異形のルールに縛られて、多様な推理がロジカルに飛翔するのである。脳が刺激されることこの上ない。食事時に読むのは避けた方が良い描写があちこちにあるが、推理の魅力は抜群。読んで良かったと思える一冊だ。