テロリストの誕生…国末憲人著 草思社

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テロリストの誕生

『テロリストの誕生』

著者
国末 憲人 [著]
出版社
草思社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784794224200
発売日
2019/10/21
価格
3,190円(税込)

書籍情報:openBD

テロリストの誕生…国末憲人著 草思社

[レビュアー] 宮下志朗(仏文学者・放送大特任教授)

 10月以降、イスラム関係のニュースが相次ぐ。過激思想に染まった職員によるパリ警視庁内での殺傷事件。極右政党の元候補者による南仏のモスク襲撃。イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」最高指導者の殺害やIS戦闘員の帰還問題。パリで「イスラム恐怖症」に反対するデモ行進もあった。

 そのたびに思う。フランスは、風刺週刊紙編集部への襲撃、パリ同時多発テロ、ニースでのトラック暴走テロというテロの連鎖の後遺症に苦しんでいると。ブリュッセル連続爆破テロを合わせた四つのテロには不明部分も多い。本書は、滞欧経験の長い日本のジャーナリストが裁判記録・研究書なども駆使した、仏語圏テロリズムの全体像解明の試みとして重要だ。

 発生前からの動きを追う迫真のドキュメンタリーとして一気に読み終えた。テロ対策の特殊部隊の交渉担当官が2人組であることにうなずき、パリ同時多発テロでの犠牲者の大半が各1発の銃弾で殺された事実からテロリストの冷徹さに慄然(りつぜん)とした。「殉教者」には、チンピラからジハード(聖戦)へというパターンも目立つ。映画でおなじみの一匹狼(おおかみ)型ではなく、カルト集団のような閉鎖的なネットワークでのマインドコントロールによりテロへと突き進む彼ら。

 「テロリスト」「移民」「イスラム教徒」はまったく異なる概念だが、ポピュリストは意図的に一緒くたにし、単純化したスローガンで情緒に訴える。こうした短絡思考を戒め、イスラム社会という仮想空間を捏造(ねつぞう)して世論・意識の分断を狙う動きに警鐘が鳴らされる。また、ジハード主義や国際情勢というマクロの視点と、テロリスト個人の心理・環境や欧州が抱える問題に注目するミクロの視点が対置される。後者を代表する仏出身の研究者で本書に登場するオリヴィエ・ロワ(『ジハードと死』の著者)の、欧州の移民2世に起きている“親子間の断絶”からテロを捉える発想が新鮮に映った。

読売新聞
2019年11月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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