リブラ 可能性、脅威、信認…岡田仁志著

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リブラ 可能性、脅威、信認

『リブラ 可能性、脅威、信認』

著者
岡田仁志 [著]
出版社
日本経済新聞出版社
ISBN
9784532916602
発売日
2019/10/22
価格
1,980円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

リブラ 可能性、脅威、信認…岡田仁志著

[レビュアー] 坂井豊貴(経済学者・慶応大教授)

 先日米国で、フェイスブック社が主導する仮想通貨リブラへの公聴会が開かれた。呼ばれたのは同社CEOのザッカーバーグ。質問者からは同社のプライバシー漏洩(ろうえい)やフェイク広告掲載に対し、厳しい意見が相次いだ。一方、リブラそのものへの意見は少なく、質問者はリブラの論点を掴(つか)み損ねているようであった。

 実際、リブラが関わる内容は多岐にわたり、その理解には様々な知識が必要である。例えばブロックチェーン技術、決済サービスの概要、貨幣論や貨幣史などがそうだ。「リブラ」と名付けられた本書は、それらを概観し、この通貨の姿の把握に挑む。

 リブラの基本的な構成は次のようなものだ。まずリブラは、ドルや円といった既存通貨のバスケットを価値の裏付けとする。著者はこれに似た事例として、平安末期の「北宋二十八銭から成る青銅銭の一貫」をあげる。これは様々な銭を一定の割合で組み合わせ、全体の価値を安定させたものだ。リブラは新型の通貨だが、平安末期の通貨に同じ工夫があるのは興味深いし、安定化の仕組みは伝統的なものだともいえる。

 また、リブラはビットコインと同じくブロックチェーン技術を基盤とする。しかし不特定多数による分散管理のビットコインと異なり、特定少数であるリブラ協会が管理を行う。そこで懸念されるのはプライバシー保護だが、著者はSNSでの私的な情報と、通貨の利用情報を切り分ける重要性を指摘する。

 本書を「思考のメモ」だという著者は、率直な思考や疑問を多くつづってくれている。たとえばリブラは将来、分散管理に移行すると計画書には記されているが、著者はそれに懐疑的だ。リブラ協会が通貨のコントロール権限を手放すとは考えにくいし、移行の道筋が明らかでないからだ。また本書には、ザッカーバーグも公聴会で言及した、中国デジタル人民元への考察も含まれている。通貨の秩序が激変する時代を理解するうえで最適の一冊である。

 ◇おかだ・ひとし=1965年生まれ。国立情報学研究所准教授。著書に『電子マネーがわかる』など。

読売新聞
2019年11月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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