「地毛なのに黒染め指導」 おかしなルールで縛る日本の教育はこのままでいいのか?

対談・鼎談

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ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

著者
ブレイディ みかこ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103526810
発売日
2019/06/21
価格
1,485円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー】100万光年先の日常から、子どもと社会を描く 劔樹人×ブレイディみかこ×瀧波ユカリ

[文] 新潮社

社会を信じられる子どもに


話題のノンフィクション『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

瀧波 ブレイディさんが地雷を踏んだ話が出てきますよね。

ブレイディ FGM(女性器の切除)の話ですね。アフリカや中東やアジアの一部で行われている慣習ですが、イギリスでは残酷な児童虐待として80年代から厳しく禁止されて、中学生も授業で教わるんです。で、わたしが移民の保護者の一人と日常会話の中で「お休みはどこか行かれるんですか」と聞いたら「アフリカには帰らないから安心しな」と睨まれて、地雷を踏んだことに気づきました。

瀧波 あの回を読んで、「えっ、こんなの難題すぎる!」と思いました。日本のママ友社会にも地雷はあるんですが、それはみんなが同じでいるための地雷というか。でも、みんなが違う背景を持つ社会で、それを踏まえて注意深くふるまっても、踏んでしまう地雷があるんですね。

ブレイディ 踏むまいといくら気をつけても踏んでしまうものなんだと割り切らないと暮らしていけないところはありますよね。悪気がないのなら、それで悩みすぎてポリコレ嫌いになっちゃうのもどうかと思いますし。

瀧波 タフにならざるを得ない。

劔 子どもたちは余計そうですよね。息子さんが通う元・底辺中学校では、お互いに地雷を踏み合っているわけで。
 ぼくがいま、自分が通う中学校を選ぶなら、息子さんと同じようなところを選ぶだろうなと思うんです。入学説明会のときの校長先生のふるまいからして魅力的で。でも、スパッと選べるかな……。

ブレイディ 取材してくださる方々からも「なんで、あの学校に入れたんですか」ってよく聞かれるんですけど、わたしは「ここに行けば」なんて一言も言ってないんです。息子が決めることですから。まあ、息子と一緒に入学説明会のライブを観ているときもノリノリだったし、わたしがこの学校を気に入っているのはみえみえだったと思うんですけど(笑)。
 息子の同級生のほとんどは別の中学を選んだんです。そこは進学校で、わたしたちも見学には行きました。でも、前の方の席の生徒は真面目に授業を聞いているけれど、後ろの方の生徒は雑誌を読んだりして、なんだか“捨てられている”感じを受けてしまって。
 息子が選んだ中学校は、廊下に丸テーブルが置いてあって、授業についていけない生徒を先生がマンツーマンに近い形で教えていました。それって、後ろの方の席に座っている子どもを押し上げようとする行為じゃないですか。たとえ効果がないとしても、大人がそういう姿勢を見せることが大事だと思うんです。それによって、社会を信じられる子どもになると思うから。どうなるか誰もわからない未来を幸せに生きていけるかどうかは、成績の良し悪しじゃなくてそういうところのような気がします。

劔 本の中で「クラスルームの前後格差」と書かれているところですよね。ぼくも、とても身につまされました。
 うちの母は新潟で高校の教員をしていたんですけど、リベラルで自分なりの教育の理想をはっきりもっているひとで、不良ばっかりいる「底辺校」を渡り歩いていたんですよ。

ブレイディ イギリスでは、公営住宅地にあるような貧しい学校ほど優秀な教員が集まる傾向はありますね。

劔 ぼくは県内で一番の進学校に行ったんですけど、そこではできるやつはできるけど、全然できない落ちこぼれがわりといて。底力はあるから最後はつじつまを合わせるんですけど、教室での前後格差は確かにあった。

瀧波 わたしは後ろ側でしたね、高校のとき。

劔 ぼくもです! 中学のときはテストやったら上から5番以内に必ずいたんですよ。でも高校に入ったら後ろから16番目でした。

新潮社 波
2019年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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