『チャップリン自伝』
- 著者
- チャールズ・チャップリン [著]/中里 京子 [訳]
- 出版社
- 新潮社
- ジャンル
- 芸術・生活/演劇・映画
- ISBN
- 9784102185049
- 発売日
- 2017/12/25
- 価格
- 1,155円(税込)
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波瀾に満ちた喜劇王の後半生
[レビュアー] 川本三郎(評論家)
【前回の文庫双六】いなせな映画監督の粋で温かな人情の世界――野崎歓
https://www.bookbang.jp/review/article/597223
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マキノ雅弘と言えば数々の時代劇と仁侠映画を作った監督として知られるが、経歴を見ると若い頃、意外なことにチャップリンと関わりがある。
父親の牧野省三が興した会社で、洋画の配給の仕事をしており、その時にチャップリンの「黄金狂時代」を配給公開した。大正十四年のこと。
日本でチャップリンの人気が出たのは大正ごろからで、映画の題名に「チャップリンの拳闘」「チャップリンの駈落」とその名が頭に付くようになった。
昭和七年には日本を訪れ大歓迎を受けた。近年出版された『チャップリン自伝 栄光と波瀾の日々』によれば、来日は、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の本を読み、東洋の神秘的な国に興味を持ったからだという。
船が着いた神戸でも東京でも熱狂的なファンに取り囲まれた。同時に「怪事件」に巻き込まれかけた。
五・一五事件である。
当日、チャップリンは時の首相、犬養毅の子息、犬養健(評論家、犬養道子の父)に招かれ、大相撲を見に行った。そのために首相主催の晩餐会への出席をとりやめ、あやうく難を免れた。
この相撲見物はチャップリンの希望とする説があるが、本書によれば、犬養健の招待だったという。
「怪事件」はあったものの喜劇王は東京観光を楽しんだ。当時、にぎわいを見せていた銀座のカフェにも足を運んで浮名を流した。
永井荷風は日記『断腸亭日乗』昭和七年七月二十日に友人から聞いた話としてこんな噂話を記している。
「此店(カフェ、サロン春)の女給里子という女、米国活動写真の役者チャプリンなる者に愛せられ遠からずかの国に渡りて其妻となるべき由」
無論、単なる噂話に過ぎないが当時の日本でのチャップリン人気がうかがえる。
今年は生誕百三十年。12月には松本幸四郎が「街の灯」を歌舞伎化した「蝙蝠の安さん」を上演する。
「チャップリン歌舞伎」という。