日本最高齢メイクアップアーティストが教える、人生を切り開くヒント

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人生は、「手」で変わる。

『人生は、「手」で変わる。』

著者
小林照子 [著]
出版社
朝日新聞出版
ISBN
9784023318519
発売日
2019/11/20
価格
1,650円(税込)

日本最高齢メイクアップアーティストが教える、人生を切り開くヒント

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

人生は、「手」で変わる。』(小林照子 著、朝日新聞出版)の著者は、日本で最高齢のメイクアップアーティスト。

決して恵まれたとはいえない環境に生まれ育ち、大きな転機をいくつも乗り越えて、化粧品会社の取締役に。

56歳で起業してからは、メイクアップアーティスト兼経営者として活動を続けていらっしゃいます。

そんな著者がプロのヘア&メイクアップアーティストを育成するメイクアップスクール「フロムハンド」を開校したのは、59歳のときのこと。

その校名には、「自分をきれいにするのも、人をきれいにしてあげるのも、自分の手。『きれいの幸せ』は『手』からはじまる」という思いが込められているのだといいます。

でも考えてみると、「手」から始まるのは「きれいの幸せ」だけではないかもしれませんね。

仕事のつながりも、名刺交換から。あるいは握手から始まります。誰かが悩んでいたり悲しんでいたりしたら、そっと肩に手を置くことで、あたたかい関係性が始まる。

自分自身の新しい一歩も、「私、どうしてもやりたいです!」と手を挙げることから始まるものですから。(「はじめに」より)

長い人生を生きるなかで著者が大事にしてきたのは、「新しい人生を切りひらく手」と「切り離すべきものを手放す手」だったといいます。

ただしそれらには、使うタイミングやコツがあり、それを間違えると、前に進んでいた人生が逆戻りしたり、振り出しに近いところまで引き戻されてしまったりもするのだとか。

そこで本書においては人生経験を軸として、「悩んだり、人生の壁にぶち当たったりしても、落ち込み、諦めるのではなく、しなやかに、自分のペースで前に進んでいくためのヒント」を紹介しているというのです。

きょうは、働くことについての考え方が提示されている第4章「気持ちよく働くための手習」のなかから、2つの考え方をクローズアップしててみたいと思います。

手がけてきたことは必ず“いま”の仕事にも生かせます

著者がかつて働いていた化粧品会社は、いまでこそ巨大な企業になっているものの、当時は社名を出しても知らない人が多かったのだそうです。

そのため美容部員として化粧品を売っているときにも、すげなく断られてしまうことがあったのだといいます。

競合他社も多い世界ですから、小さな会社にとっては難しいことも多かったのでしょう。

競合他社がたくさんいて、自分のところのブランド力が弱いときは、商品の良し悪しだけで勝負しようとしても勝てません。商品プラス良質なサービスが大事。このサービスというのは、商品関係のサービスだけではありません。

たとえば道を聞かれたら丁寧に教えて差し上げるといったことも大事です。(119~120ページより)

仕事を展開していくときに重要なのは、「もし自分だったら、どうしてもらうとうれしいか」「どんなふうに言ってもらえたらうれしいか」ということをちょっとだけ考えて、相手に接してみることだと著者。

それは、ささやかなことでかもしれません。しかし、相手の心に訴えかけるようななにかを提供することができれば、そこから仕事が大きな展開になることもあるということ。

仕事とは、そういうことの積み重ねだというのです。(118ページより)

肩書の魔力に振り回されない

人は管理職になって現場を離れてしまうと、現場で大変だったときのことを忘れてしまいがち。

しかし、「自分はもう管理職なんだから、細かいことは下に振ればいい。自分に直接関係ないだろう」などと考えていると、そうした思いは周囲に伝わってしまうものでもあるでしょう。

だからこそ、肩書がどんどん上がってきたからといって、「自分が偉い」などと思うべきではないと著者は主張しています。

そして自身も昔から、自分の肩書を名乗ったことは一度もなく、いつもフルネームで名乗っているのだそうです。

仕事の場では、もちろん肩書がものをいう場面も多々あります。しかしあまりそこに寄りかかり過ぎてしまうと、ひとは自分を見失ってしまうもの。

自分本来の力はまだまだ小さなものなのに、肩書によって得た大きな力が自分のものだと勘違いしてしまう。そして研鑽を積む努力も怠ってしまう。これは一番おそろしいことです。

肩書がなくなって、はたと気づいたときには、自分自身に「実力」が何もないのですから。(136ページより)

肩書がついたり、有名になってきたときほど、「本業」を大事にすることが大切。そしてもうひとつ、「本来の自分」の軸を見ることも忘れるべからず。

人に持ち上げられていい気になり、本業以外のことに夢中になったり、自分が努力すべきことを放り出してはいけないということです。

また、社会的立場や職場での地位が上がると言動に威圧感を出す人がいますが、もちろんそれもNG。そのせいで話しかけられづらくなると、人が集まらなくなり、損をすることになってしまうからです。

そうなると必然的に、情報も集まらない状況になってしまうわけです。(136ページより)

自分の下で働くひとが増えれば増えるほど、なめられないようにすることも時には必要ですが、居丈高なだけでは、ひとのこころを掴むことはできません。

「驕れるものは久しからず」 平家物語のこの一節を、私は忘れないようにしています。(137ページより)

最後に、「はじめに」に書かれていた印象的な文章をご紹介しておきたいと思います。

なにぶん84年生きてまいりました。私にあるのは「経験」です。

会社員として、取締役として。企業経営者として、メイクアップアーティストとして。妻として、母として、祖母として、曽祖母として。 そして、何より、ひとりの人間として。

私が80年以上にわたり積み重ねてきた人生経験の中から、どんな時でも自分の「手」で、今日より素敵な明日を切りひらいていくために、私なりに見出してきた生き方のコツをお伝えできればと思うのです。(「はじめに」より)

このことばは、強い説得力を感じさせてくれるのではないでしょうか?

著者がいうように、理屈ではなく経験に裏づけられているからです。これから先、よりよい人生を歩んでいくためのヒントとして、本書を活用してみるのもいいかもしれません。

Photo: 印南敦史

Source: 朝日新聞出版

メディアジーン lifehacker
2019年12月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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