「オルタネート」連載開始記念 加藤シゲアキ ロングインタビュー 作家生活十周年を前に——

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「オルタネート」連載開始記念 加藤シゲアキ ロングインタビュー 作家生活十周年を前に——

[文] 新潮社

いろいろなテーマへのチャレンジ


『傘をもたない蟻たちは』(角川文庫)

――四つ目の作品はそれまでとうって変わって『傘をもたない蟻たちは』(KADOKAWA)という短編集でした。これはどのようにして生まれた短編集なのでしょうか。

 いわゆる「渋谷サーガ」を書き終えて、全く違うものにトライしてみたいという気持ちがありました。僕が書いた小説ということで手に取ってくれる読者の方がたくさんいたと思うんです。そういう人たちをがっかりさせたくない思いもあって、それまでの長編三作はやはりエンターテインメントを書こうという意識が強かったんです。でも、もうそろそろ違うものを書いても読者が許してくれるかな、と思って、芸能じゃないもの、SFや恋愛とかにもトライしてみました。色々なものにチャレンジできるということもあって、短編を書くのは本当に楽しかったです。

 そうそう、この中には「にべもなく、よるべもなく」というタイトルの短編があるのですが、この短編の冒頭にある「妄想ライン」という小説内小説は、先ほどお話しした、僕が高校時代に初めて書いた小説がベースになっています。

初めての週刊誌連載


『チュベローズで待ってる AGE22』(扶桑社)

――約二年前に出版された最新長編『チュベローズで待ってる』(扶桑社)は、前編は「週刊SPA!」での連載をまとめたもので、後編は書き下ろしというかたちで出版されました。連載はこれが初めてだったんですよね。

 最初に「週刊SPA!」から長期連載の話をいただいたとき、正直、自分に連載という執筆スタイルが可能かどうか不安があったので、一度短編を書かせてもらうことにしました。それが『傘をもたない蟻たちは』に収録されている「Undress」という小説です。それにはわりと手応えがあったので、すぐに長編のプロットを提出して、とんとん拍子に連載の話が進むことになりました。出版社からリクエストされたテーマは「サラリーマン」。「Undress」ではサラリーマンを辞める男性を主人公にした小説を書いたので、今度はサラリーマンになる男性の話を書こうと思いました。就活で失敗してホストになって、その後サラリーマンになるという主人公の設定は、大衆的なイメージのある「週刊SPA!」の読者を意識して作りました。


『チュベローズで待ってる AGE32』(扶桑社)

――連載ということで、意識された部分はありましたか?

 そうですね、それまでの長編は全部書き下ろしだったので、週刊誌で読んでくれる読者のためにリーダビリティを追求しようと思って取り組みました。「週刊SPA!」のメイン読者はサラリーマンで、その雑誌でサラリーマンをテーマにした小説を書いていたんですが、僕自身は就活もしたことがないしサラリーマンをやったこともない。でも学生時代の友達はほとんどみんな就活をしてサラリーマンをやっているんですよね。だから想定読者や取材対象者が周りにたくさんいたのも心強かったです。

 あと、それまでとは小説の書き方を変えてみたというのも「チュベローズ」で試みたことの一つです。連載時はとにかく「読ませる」ことを意識して書いていって、書き下ろしの後編で、そこの伏線を一気に回収するように書いてみました。最初から設計図をつくって書き始めなくても、とにかく求心力の強い物語というのを意識して書くことができたという手応えがありましたね。

アンソロジーへの挑戦


『行きたくない』(角川文庫)

――『行きたくない』(角川文庫)は色々な作家さんが同じテーマで競作するかたちのアンソロジーですが、緊張されたりはしませんでしたか?

 ほかにどんな執筆者の方がいらっしゃるか分からない状態で書いていたので、緊張はなかったです(笑)。でも書き上げたあと、ほかの作家さんのお名前を見て、エンタメ系のさわやかな書き手の方の中に放り込まれたんだなとびっくりはしましたね。

 でも、次に書く長編小説は高校生を主人公にした話にしようと思っていました。実際に長編を書き始める前に高校生を主人公にした小説に挑戦しておきたいなとも思っていたので、ここで書いた「ポケット」で、高校生を書けて良かったと思いました。こんなことを言ったらKADOKAWAさんに怒られるかもしれませんけど(笑)。

 高校生の、思春期独特の心理を小説で書くことにトライしてみて、長編「オルタネート」も書けるという感覚を得ました。

そして新連載「オルタネート」へ

――『チュベローズで待ってる』の刊行から約二年ですが、この間、加藤さんに何か変化はありましたか?

 おかげさまで執筆の仕事はいただいていたのですが、書いていくうちに「作家生活十年」という区切りの年が近づいているという漠然とした不安がありました。「NEWS」の活動のほうは、去年十五周年という区切りのタイミングで大きなイベントをしたりしているんです。作家生活のほうもあと二、三年で区切りが来てしまう。僕はそのキャリアに見合うだけの仕事ができているのかと自分を見つめ直したりしていました。それと、「タイプライターズ~物書きの世界~」(フジテレビ)という番組で色々な作家の方のお話を伺ったりして、とても刺激になりました。次にチャレンジする小説は、作家として説得力のあるものにしていきたいという思いがあります。

――新連載「オルタネート」は高校生が主人公の学園ものです。どうしていま高校生を主人公にした小説を書こうと思われたんですか?

 30歳を過ぎて、だんだんと高校生が遠くなってきたと感じているんです。それは当たり前のことでもあるんですが、こうして感覚とか存在とかが離れていくんだなと、ふと不安に思うこともありました。だからこそ、これから僕は若い人を主人公にした小説を書きにくくなる。なら「今」チャレンジするしかないんじゃないかと思って、新作のテーマに選んでみました。

 あと、高校生の恋愛も書いてみたいと前から思っていたのですが、自分が若いうちだと自分と重ねて読まれるのも嫌だなと思って、敬遠して書いていなかったんです。でも、今の僕が高校生の恋愛を書いても、誰も重ねて読むことはないだろうから安心して取り組めました。

 高校生を書くなら今がラストチャンスだという思いと、高校生という存在に対して適度な距離ができたからこそ、彼らを主人公に据えることができたんだと思います。

――新連載「オルタネート」には、「オルタネート」という架空のSNSサービスが登場します。

 僕自身はSNSは全くやらないのですが、「NEWSな2人」(TBS系)という番組をやらせてもらっていて、そこで若い人たちからSNSやマッチングアプリについての色々な意見を聞いたんです。賛否両論というか、本当に色々な意見や関わり方があって、とても興味深いなと感じて、高校生を書くうえで、こういうものを装置として使ってみるのも時代を切り取るという意味でも面白いかなと思って小説に組み込むことにしました。

 SNSという新しいサービスと、「高校生」という普遍的な存在、それらを僕が書くということの化学反応を、これから読む読者の方には楽しみにしていただけたら嬉しいです。

新潮社 小説新潮
2020年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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