『経済的理性の狂気』
- 著者
- デヴィッド・ハーヴェイ [著]/大屋定晴 [監修]
- 出版社
- 作品社
- ジャンル
- 社会科学/経済・財政・統計
- ISBN
- 9784861827600
- 発売日
- 2019/09/25
- 価格
- 3,080円(税込)
書籍情報:openBD
経済的理性の狂気 デヴィッド・ハーヴェイ著
[レビュアー] 廣瀬弘毅(福井県立大准教授)
◆資本主義に必然的な危機
公正な貿易を建前にしつつ自国に利益を誘導しようとする米中貿易摩擦、地域の自立性を叫びつつ排他的な側面も持つブレグジットなど、近年は複雑で不安定な時代に入ったと感じさせられることが多い。こういった何か大きな出来事があるたびに犯人捜しが行われ、たまたまこの要因が悪かったのだと、片付けられてしまっていないだろうか。
だが、資本主義を歴史的に振り返ってみれば、大恐慌、石油危機、リーマン・ショックと、危機的経済状況は何度も繰り返されてきた。だとすれば、危機とは、たまたま運悪く、経済システムの外部から降りかかってくるものによって引き起こされるのではない。システムの中に危機を生み出す契機がすでに潜んでおり、しかも、それ自身はシステムの運行に不可欠な要因となっているので、簡単に取り除くことはできない。大胆に言ってしまえば、マルクス経済学が他の経済学と一線を画しているのは、危機を例外的な出来事とはせず、必然的なものだと分析する点にある。
本書の著者は、もともとは経済地理学から出発したマルクス経済学者である。世界中に資本主義的生産様式が広がる一方で、地域ごとに異なる価値体制が構築されるため、豊かな国による貧しい国の搾取が生じていること。需要不足を債務の累積的増加によって支えているが、そのこと自体がわれわれを債務に縛り付けるという「債務懲役」状態に陥らせ、将来の危機を生みだしていることなど、時間と空間の広がりの中で論理を説得的に展開している。
だが、この論理を理解するには、ある程度の基礎知識があった方が望ましい。たとえば、同じ著者による『<資本論>入門』などを読み終え、マルクス経済学についてさらに理解を深めたいと思った人にうってつけの本だろう。苦労して理解した暁には、個別資本家が「愚鈍で強欲で狂っている」からではなく、彼らが経済的理性という市場の隠された手に駆り立てられる結果、「狂気的」に見える現象を生み出すメカニズムが、ストンと胸に落ちるだろう。
(大屋定晴監訳、作品社・3080円)
1935年生まれ。ニューヨーク市立大特別教授。著書『資本の<謎>』など。
◆もう1冊
水野和夫著『資本主義の終焉(しゅうえん)と歴史の危機』(集英社新書)