【児童書】『ちいさなタグボートのバラード』

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ちいさなタグボートのバラード

『ちいさなタグボートのバラード』

著者
ヨシフ・ブロツキー [著]/イーゴリ・オレイニコフ [著]/沼野恭子 [訳]
出版社
東京外国語大学出版会
ISBN
9784904575772
発売日
2019/11/30
価格
2,090円(税込)

【児童書】『ちいさなタグボートのバラード』

[レビュアー] 黒沢綾子

 ■異郷への切ない憧れ

 主人公の「ぼく」はタグボート(曳船(ひきふね))。港に出入りする大型船が停泊できるようエスコートする。小さいけれど馬力はあって、仕事に誇りを持っている。

 大型船は遠い国々からやってくる。南国の「岸辺のヤシにとまっているオウムだけがなきさけぶところ」だったりする。いつかぼくも、大海原の向こうの世界を見てみたいけれど-。

 本作はロシア出身のノーベル賞詩人、ヨシフ・ブロツキー(1940~1996年)が22歳の頃、児童雑誌に初めて発表した詩という。自由に出版できないソ連下で、彼が公に発表できたわずかな作品のひとつ。その後、理不尽な逮捕や強制労働に苦しんだ彼は72年、亡命し米国に渡った。

 国際アンデルセン賞(画家賞)を昨年受賞したロシアの画家、イーゴリ・オレイニコフが半世紀の時を超え、この叙情的な詩に注目し美しい絵本に仕上げた。異郷への憧れと、港にとどまるべき自らの使命の間で葛藤する小さな曳船。詩情豊かな絵と巧みな日本語訳により、その切ない心情が胸に迫ってくる。(ヨシフ・ブロツキー詩、イーゴリ・オレイニコフ絵、沼野恭子訳/東京外国語大学出版会・1900円+税)

 黒沢綾子

産経新聞
2019年12月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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