宇宙船からアイドルまで!? 出身地の東北を舞台にした物語を中心に執筆活動を行う根本聡一郎氏とカリスマ書店員・田口幹人の対談!

インタビュー

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宇宙船の落ちた町

『宇宙船の落ちた町』

著者
根本聡一郎 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758443050
発売日
2019/11/15
価格
770円(税込)

書籍情報:openBD

根本聡一郎の世界

[文] 石井美由貴


写真右|田口幹人 左|根本聡一郎

出身地の東北を舞台にした物語を中心に執筆活動を行う根本聡一郎氏。『宇宙船の落ちた町』もまた、自身の郷里への思いが生んだ作品だ。そんな根本氏の対談相手となったのは田口幹人氏。同じく東北出身でカリスマ書店員として名を馳せた田口氏はこの作品をどう読んだのだろうか。東日本大震災でのボランティア活動など共通項も多い二人の話は作品の背景となった“あの時”にも及んだ。

僕はあの町、嫌いじゃないんですよ。

根本聡一郎(以下、根本)  僕は人の迷惑になるくらいツイッターをやっているんですが、そこで見たのが「さわや書店」さんのポップでした。すごい本屋があるなぁと。でもそれを書かれていたのが田口さんだというのは存じ上げなくて。今日はお会いできて、とても嬉しいです。

田口幹人(以下、田口) 僕もお目にかかれるのを楽しみにしていました。同じ東北出身として『宇宙船の落ちた町』には共感する部分がたくさんありました。根本さんは福島県の出身なんですよね。

根本 いわき市です。とはいえ、僕が生まれ育った好間町というところは市内でもかなり山の中で、ど田舎です(笑)。通っていた小学校は全校生徒合わせて七十二人。クラス分けという概念を知ったのは中学に入ってからでしたね。

田口 作品の冒頭で、主人公が自分の町について「何もない」と言ってますよね。「あってほしいものがなく、なくてもいいものだけがある状態」をそう言うと。これ、実際に田舎にいた人でないとできない表現だと思うんですよ。僕も人口六千人の町で生まれ育っているので、よくわかります。

根本 本当にそう言うしかないんです。でも、僕はあの町、嫌いじゃないんですよ。

田口 東日本大震災に遭った時は福島にいらっしゃったのですか?

根本 いえ、大学進学をきっかけに仙台で暮らすようになり、震災は二年の終わりでした。それから沿岸部で瓦礫を拾ったり、ネットメディアを使ったNPOの活動も始めたり。この頃って進路に影響する時期なので友人たちは東京に行っていましたが、僕はここでやるべきことがあると思い続けていたら、就活シーズンが終わってしまった。それまでは教師になるつもりだったんです。でも、さまざまな人に出会い、いろいろ経験していく中で考えが変わり、卒業後は本屋さんでアルバイトをしながら、小説を書くようになりました。

田口 えっ、書店ってどちらの?

根本 今はもうなくなってしまったんですけど、仙台駅の三階にあった……。

田口 ブックスみやぎ?

根本 そうです、そうです。NPOに注力することになり、半年ほどで辞めることになってしまいましたが、とても良い経験をさせていただきました。

田口 僕は盛岡で震災を迎えましたが、支店のあった釜石市の壊滅的な状況も目の当たりにしています。それでも、同じ東北とはいえ一括りにできないのが福島だと思っています。この“宇宙船が落ちた”とは、つまり、原発事故を指しているわけですよね。

根本 イコールではないのですが、着想はそこからです。福島で育った僕らの世代は子どもの頃に見ていた東京電力のCMがあるんです。発電所が擬人化されたアニメで、火力くんと水力くんが疲れているところに、原子力くんが颯爽と出てきて『ボクも力になるよ!』と言うんです。それで『よかったね♪』で終わる。事故が起きてからあのCMが福島県だけに流れていたこと、その意味に気づいて愕然として。それが一作目の小説を書くきっかけになりました。ただ今回は、人々の暮らしを書きたいと思ったところから始まっています。

田口 宇宙船がどう影を落としたのか……。

根本 ええ。宇宙船が来る前にも生活があったわけで、その生活がどう変わるのか。そのグラデーションを描きたいなと。

田口 なるほど。主人公の佑太のアパートやおじいちゃんの暮らしに匂いを感じたのはそういうことなんですね。僕はね、そこに根本さんが原発にどう向き合い、どう整理していこうとしているのか、その葛藤を感じました。

根本 そうですね。原発に対しては一言では言い表せない思いがあります。僕は科学を専門に学んできた人間ではないので、その見地から語るつもりはありません。でも一つ言えることがあります。原発は人を分断してしまうということです。原発の立地した町なのか、そうでないのか。言い換えれば、認めたのか、否か。どの過程でも分断が生まれます。悲しいことに今回の事故によって福島にはさらなる分断も生まれましたが、たとえ事故がなかったとしても構造的に分断を生んでしまうと思っています。だからこそ、建設的な議論を積み重ねて、納得した上でなくす方向に持っていけたらと。難しいことだとは思っていますが……。

僕は作品の中に縁側の存在を見出したように思います。

田口 小説を読んでいてすごく感じたのが、どっちの立ち位置の人にも思いや意思があるということです。宇宙船が落ちたことによって住民の生活は変わった。出て行った人もいる一方で、残った人もいる。それは、福島にもそっくり当てはまることだけど、そうした人々の思いを知るというのは、すごく大事なことだと思うんですね。先ほど分断と言ったけど、今の世の中は完全なる分断の社会ですよね。白か黒かはっきりさせないといけないわけでもないのに、どちらかに属さなければいけないという不安がある。閉塞感があると言われるのも、そういうことなんだと僕は思っています。でも、分断されるところには“縁側”があるはずなんです。僕は作品の中に縁側の存在を見出したように思います。それが根本さんの一つの答えなのかなと。

根本 縁側っていい言葉ですね。使いたかったな。僕の中では“境界”がテーマでした。小説の中でも、かつての炭鉱が自然に侵食され、人工物があったのかどうかもわからない状態になっている様子を描きましたが、境界がなくなってしまったところが悪い場所だとは思えない。むしろ、寄り合える場所なんだと思うんです。

田口 それぞれが抱える思いは複雑で、いや、そんな言葉で片づけられるものでもないんだけど、そうした思いが受け継がれることで、やがては互いのわだかまりも少しずつ溶けていくかもしれない。縁側がちょっと広くなってね。

根本 自分が描いたものは理想に過ぎないというお声はきっとあると思います。だけど、理想を描くことをあきらめたくはないと思っています。

田口 この出来事をノンフィクションとして伝えるという方法もあると思いますが、それでは多くの人には伝わらないんですよね。フィルターが掛かってしまうから。だから小説、物語が必要なんです。物語というのは誰かの思う真実です。そして、そこから、その人が伝えようとしている真実を見つける作業が読書だと、僕は思っています。

根本 田口さんは著書の中で「本を通じて起きたことに対しては、とても寛容になってもらえる」と書かれていますよね。本当にそうだと思います。原発という言葉を使った時点で、福島とあるだけで本を手に取らない人もいるでしょう。だから僕は宇宙船というモチーフに思いを託しました。

アイドルファンにとっての最高の理想を描けたらなと

田口 あとね、どうしても伺っておきたいことがあるんです。アイドルは好きですか?

根本 えーっとですね、好きと言うにはおこがましいくらい知識がないのですが、アイドルに救われた友人たちを見ていると、いいものだなと(笑)。

田口 握手会のシーンが出てきますね。実際に行かれたんですか?

根本 はい、AKB48の握手会に。アイドルの話を書くならやっぱり行かなきゃだめだろうと。初回限定のCDを買って手に入れた一枚を持って行ったんですが、周りは何枚も持っていて驚きました。

田口 普通は何回も並びますからね。

根本 お詳しいですね。

田口 僕は専門家ですから。この対談も、むしろこっちがメインでセッティングされたんじゃないかと思っています。作品に登場するマリア・シスターズは十二人で、姉妹という設定です。つまり、同じ母から生まれていると。そこがこの作品の中では一つのミスマッチにもなっている。

根本 はい。

田口 常盤木りさが鍵でもあるんだけど、専門家として言わせてもらうと、アイドルというのはファンを裏切ってはいけないんです。表に出なければいいというものでもなくて、陰でやっていることも含めてアイドルなんです。そういう意味でも、りさはすごくいいと思います。やべー、惚れてしまうと思いながら読んでました(笑)。

根本 アイドルファンにとっての最高の理想を描けたらなと。

田口 いや、最高でした!

根本 今回は宇宙人も出てきたり、かなり突飛な設定ではありますが、このアイドルパートはアイドルファンはもちろん、そうでない方にはもう一つの異世界と思って楽しんでもらえると嬉しいです。

 ***

根本聡一郎(ねもと・そういちろう)
福島県いわき市出身、仙台在住。東北大学文学部卒業後、NPO活動と並行して小説を執筆。他著書に『プロパガンダゲーム』『ウィザードグラス』などがある。

田口幹人(たぐち・みきと)
2005年から19年までさわや書店勤務。全国的なヒット作を多く送り出す。現在、リーディングスタイルに勤務。著書に『まちの本屋 知を編み、血を継ぎ、地を耕す』など。

構成:石井美由貴

角川春樹事務所 ランティエ
2020年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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